生意気な妖精、魔法に使う道具の加工をつかさどる技師、親しげに語りかけてくるやんちゃなドラゴン、妖精の女王ティターニア、異なる種の動物をかけ合わせる魔術に没頭する少年。
新しいキャラクターが登場するたびに、彼らがほんの脇役ではなく、物語の世界をどんどん押し広げていくのを感じる。
緻密に描きこまれた画面の力も圧倒的。気づけば、魔法のひしめく世界に、ある日突然連れてこられたヒロイン・チセとともに少しずつこの世界に足を踏み入れていくような気分になっているのだ。
エリアスのもと、チセは「魔法そのものというよりまわりにあふれる様々なモノとの関わり方」を学んでいく。
わずか15歳ながら孤独感を抱えたチセに、しだいにエリアスをもっと知りたいという気持ちがわき、自分はどうあるべきかを考えることに直面する構図は恋物語であり少女の成長譚でもある。
同時に「人間でもけものでもない」とされるエリアスの心のうち、今はまだ開示されない秘密も今後ストーリーの大きな軸になっていくのだろう。
古来から繰り返されてきた「私は何者なのか」という根源的な問い。
わくわくするような魔法への憧れ、いにしえの暮らしへの郷愁、畏れ。
そうしたものが渾然一体となり……幻想的なファンタジーを「私たちの物語」として読ませる力を持った作品である。
『魔法使いの嫁』編集担当者様から、コメントをいただきました!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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