特定ジャンルに詳しい「目きき」の人たちに、テーマ・著者・出版社……といったカテゴリ別に、必読のマンガ作品を教えてもらうコーナー、その名もズバリ「目ききに聞く」!
いわば“サブカルのメッカ”といえる下北沢にあり、ベストセラーからなかなか普通の書店では見かけないマニアックな作品まで、古書全般を取り扱っている「古書ビビビ」。お笑い芸人にして、芥川賞を受賞したピース・又吉直樹さんも開店当初から訪れているという、下北沢の名物古書店だ。
今回は、そんな古書ビビビの店主・馬場幸治さんに、インディーズ系マンガのなかからオススメの3作品をご紹介いただいた。馬場さんは、レアマンガコレクターでもあるとのことで、今回挙げていただいたラインナップも興味深い作品ばかり。
本記事を読んで興味を持ったら、下北散策に出かけてみるってのもいいんじゃないでしょうか?
「古書ビビビ」の店主・馬場幸治さんイチオシの3作品
『香山哲のファウスト』香山哲
『香山哲のファウスト』第1巻
香山哲 ドグマ出版 ¥1,333+税
※一部書店のみの扱いとなります。
このマンガは去年古書ビビビ出版部で刊行したマンガ『トーキョー・ベイ』(作画・齋藤裕之介)を模索舎さんに置いてもらえることになり、うかがった店頭で「なんだこの異様な雰囲気のジャケは!」と心のなかで絶叫してジャケ買いしたものです。
ストーリーを簡単に説明するとプレ世界α(アルファ)の住人である主人公・中道シーゲルは天使メフィストの協力のもと、人並み外れた物事を懐かしむ力「懐力(ノスタルジカラ)」をフル活用し新たな世界β(ベータ)世界の発生に成功する。こうしてシーゲルは、新たな世界で少年時代をやり直すことを決意するが……と、まあこんな感じです。
家に帰ってページを開いてみたら、描線が太くコマの白い部分の少ない僕の好きな感じの描きこみ多めの絵柄で「これはイケそうだ」と思い、読み進めてみるとこれがとにかくファンタスティックで度胆抜かれました。
楽しいなかにも時に哲学的な問いかけがあったり、「うわ、オレ中道シーゲル(主人公の名前)じゃん」とドキッとしてしまう瞬間があったりと、読み終わった瞬間のなんとも言えないずっしりとした感じは、なかなかないものでした。
あと僕が気に入ったのが手描きの台詞やナレーションです。味があって、絵と一体化しているのがいいですね。
『足摺り水族館』panpanya
『足摺り水族館』
panpanya 1月と7月 ¥1,200+税
(2013年8月30日発売)
panpanyaさんの絵を初めて知ったのはまんだらけの同人誌イベントのポスターで、まんだらけの知り合いの方が「多分気に入りますよ」と送ってくれたのが、このマンガでした。
はい、気に入りました、最高に。
さささっと描いたようなキャラに対する、ガロ系というか細かな描きこみの対比がおもしろくて、そしてなによりストーリーが完全にオンリーワンのものなので、いろんな方に読んでほしくて今まで友人に数冊プレゼントしています。
タイトルや装丁、突然紀行文が挿入されるような構成まで含めて好きな本です。
「人造人間の怪」呪みちる
『人造人間の怪 呪みちる初期傑作選I』
呪みちる トラッシュアップ ¥1,400円+税
(2014年8月11日発売)
呪みちるさんの本は一時期すべて絶版になっていて、ファンとしては新たな読者層を獲得できないことにやきもきしていたのですが、雑誌「トラッシュアップ」が立て続けに『ライオンの首』『人造人間の怪』と2冊の選集を出してくれて感謝の雄叫びをあげたものです。
僕がホラーマンガに求める重要な2つの要素、「有無を言わせない画力」「頭くらくらするくらいの強烈なイマジネーション」が、いずれも最高値を叩き出しているのが呪みちるさんなのです。
間違いなく現在のホラーマンガ界を代表する漫画家のひとりであり、『人造人間の怪』収録の「青空の悪魔円盤」はホラーマンガ至上に残る傑作なので、ぜひ読んでみてください。
現場からは以上です。
番外編オススメ!
「青春悩電波選」高塚Q
『高塚Q傑作シリーズ 青春悩電波選』
高塚Q 古書ビビビ出版部 ¥1,380+税
(9月発行・発売中)
なんか宣伝みたいですみませんが、古書ビビビ出版部から発売されている『高塚Q傑作シリーズ 青春悩電波選』が、これまた大傑作なんですよ。
高塚Qさんの名前を知ったのは、某大型古書店でまとめ買いした「オール怪談」という雑誌で、そこで初めて知ったにもかかわらず、ほかの有名漫画家さんに負けないインパクトを受けて、自分のホームページに全作品の感想をアップしたのですが、それをご覧になった高塚さん自ら連絡してきてくれたのがおつきあいの始まりです。
それが約7~8年前。高塚Qさん全面協力のもとで「高塚Qの作品集を出す」という長年の夢がようやく実現しました。
近年復活を果たした高塚Qさんは、90年代に多数の作品をあちこちのホラーマンガ雑誌に発表していたのですが、ご本人いわく「あの頃はちょっとおかしくなっていた」とのことで、それが作品に反映されたのか、常人にはなかなか思いつかないような奇想天外な話が多いです。
様々なパターンの倒錯愛を描くのも得意としているのでジャンルでくくることの難しい漫画家さんですね。
とにかく一度読んでいただければ、その独特の世界観に惹きつけられること確実です。