はじめは金目当て(とくに竹雄は親父の借金返済のため)だった2人も、幼虫がサナギになるように「カワイイ」に開眼していく。目にカラコンも入れたり、三階級落として3倍カワイくなろうとしたり、身を削って本気でハマる。
彼らが具体的なゴールに目もくれず、「宇宙一カワイイ」に命を懸けるのが本作の恐ろしさ。
学園祭デビューはサクッとすませたし、武道館コンサートとかチャチなものも眼中にない。グレイ型宇宙人に拉致られたツバメが見た(幻覚かどうか不明)「カワイイの星(?)」にまっしぐらだ。
なお、原作者もこの星が「どんな何かは謎である」と正解をぶん投げている。
3人の“変身”を目撃した同級生の女子・ワルコが秘密をバラすことをチラつかせつつプロデュースを持ちかけても、カネならあるので相手にされない。普通はマネージャー役の女子が登場=アイドルを目指す新展開になりそうなのに、ならないのだ。
女装は変態だと罵っていたワルコも3人のダンスは認めていて、「カワイイ」に頬を染める。
彼女の隠れ巨乳がバレて男の友情にヒビが入る……ことはなく、「自分が巨乳になりたい」のスイッチが入る3人。「自慢のカワイイが巨乳に打ち消されている!」とダメ出しするワルコは、もはや「カワイイの星」が見えている仲間だ。
目的地は宇宙一カワイイ、ツッコミ役が不在、次はどう転がるかまったく読めない『プリマックス』のすさまじいドライブ感。
どこか懐かしいと思ったら、コレ、主人公が奨励会を退会して「プロ棋士になれないのにどうするの?」と行き先不明で始まった『ハチワンダイバー』の感覚にソックリかもしれない!
『プリマックス』著者の柴田ヨクサル先生と蒼木雅彦先生から、コメントをいただきました!
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。