3本目は「白鳥公園」。ほこの3編が女性向けなのに対し、こちらは初出が「モーニング」、青年誌だ。
男女の公園での逢瀬。2人がどのような関係かは、最初のページですぐにわかる。
不倫が妻にばれ、刃傷沙汰もあったと推察されるネームが続く。
会わなくなって4カ月、彼女は妊娠していた。
2人がいるのは、白鳥のいる公園だ。かつて彼は、彼女を「白鳥みたいだ」と誉めたこともあったのだ。
「みにくいあひるの子」だった彼女が、彼のために白鳥のごとく美しくなった。
そして彼女が、本当に求めていたものは……?
鳥飼短編における、起承転結の「転」部のすばらしさはまさにみごとのひとことで、思わずページをめくる手が止まるのだが、特にこの『白鳥公園』のそれは筆舌に尽くしがたい。
おそらくだれもが、圧倒されること間違いなしだ。
最後の4編目は「You've gotta ラブソング」。
こちらは「転」部でさくっと裏切られるだけでなく、ラストに向けて粛々と進んでいく1コマ1コマに目を奪われる、表題作にふさわしい圧倒的な作品だ。
物語は、男女の久々の再会から始まる。
主人公の青年は、夫を持つ年上の彼女と関係を持っていた。
彼女は夕日を好いていた。何もかもが「きれいごと」に見えるから。
だから彼女は再会も、夕日のなかを選んだ。
彼は夕方の金色のなかで、彼女に口づける。そして――。
裏表紙の作品説明には「美しくも残酷な結末」とあるが、はたしてこれは残酷なのか否か。
それは読む人によって異なるはずだ。
読者一人ひとりがそれぞれに意味を持たせられる、懐の深い終わり方だと感じる。
しかしまあ、著者はなんという短編巧者であることか。
映画を思わせる余韻のあるネーム運びや構図がすばらしく、どれも短編とは思えない独特のスケール感がある。
これを読んだ人はみな、著者が今後も短編をこの世に生みだしてくれることを待ち望むに違いない。
『ユー ガッタ ラブソング』著者の鳥飼茜先生から、コメントをいただきました!
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」