話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『ユー ガッタ ラブソング 鳥飼茜短編集』
『ユー ガッタ ラブソング 鳥飼茜短編集』
鳥飼茜 講談社 ¥580+税
(2015年9月11日発売)
『おんなのいえ』、『地獄のガールフレンド』と、女性たちの共感を一身に集め、今や不動の人気を誇っている漫画家・鳥飼茜。
初の短編集である本書は、収録されている4編どれもが心揺さぶる、深い心理描写と卓越したエピソードで綴られる珠玉の逸品だ。
まず1本目は、すべて博多弁でストーリーが進む「いきとうと」。
主人公は小学生の息子を持つ主婦・あかり。
子どもは優秀、夫も仕事ができて評価も高く、次期課長も間近。マイホームも実現しそうで、普通に考えれば満ち足りた幸せな生活のはずだ。
しかし、何かが足りない。だが、何が足りないのかさえわからない。
それからあかりは、思いがけないいくつかの行動に出る。そして、彼女が見出したものは――。
「いきとうと」というタイトルも考え抜かれている。平仮名にすることで、単に「生」の字をあてるのではなく、いくつもの意味あいが読みとれる深さがある。
方言のリアルさも相まって、生々しさに胸をえぐられる一編。
続いては「家出娘」。2008年初出と、4作のなかでは一番発表の早い短編だ。
雪のなか、浮かない気持ちで帰宅する女子高生・三上。
彼女は毎日毎日少しずつ、家に帰りたくない気持ちが募りつつある。
そんな時、バス停で雪に降られている友人の彼氏・忍川に出くわす。
1時間に1本のバスに行かれてしまい、待ちぼうけになる忍川に、三上は缶コーヒーを持っていき、2人はぽつぽつと会話を始める。
三上は、まだよく恋を知らない。恋人を持つことにも、ただ憧れがある。
忍川とつきあう友だちの志穗に対しても、ただただ傍観者としてうらやましいだけで、恋人同士の間に何があるのかも、彼女はまったくわかっていない。
この後の忍川の行動が、三上を一歩、いや数歩、大人への階段を登らせることになる。
それがどんなかたちなのかは、本編でお確かめいただきたい。