思えば本編(『賭博黙示録カイジ』1巻・第4話「出航」)における利根川の初登場はじつに鮮烈だった。
債権者たちを一同に集めた豪華客船「エスポワール」のギャンブルホールに現れた利根川は、限定ジャンケンの説明をひととおり行うと、ゲームに参加する債権者たちからの質問をいっさい受けつけずに去ろうとする。
納得のいかない債権者たちは次第にざわざわし、「負けたときはどうなるんだ?」「我々には知る権利がある!」などと口々に叫び始める。
その刹那、利根川の一喝が会場に響くのだ。
ぶち殺すぞ・・・・・・・・・・ ゴミめら・・・・・・!
「甘えを捨てろ 勝ちもせず生きようとするな 勝つことがすべてだと心に刻め」とたたみかける利根川。
強者の論理で言いくるめられているにもかかわらず、涙を流して感動する債権者も多数。このあたり、ベテランの中間管理職らしい、巧みな人心掌握術である。
話を巻き戻そう。
兵藤会長をたのしませるためには、ちょっとやそっとのイベントではダメ。だれもがドギモを抜く悪魔的なゲームでなければいけない。
利根川と黒服たちは出世のためにも、ここで失敗するわけにはいかない。「血液を賭けた麻雀」(!!)など、さまざまな意見が飛びかうなか、部下たちの心をほぐすためにオヤジギャグをちょいちょいはさんでいく利根川。
そんなよき上司も、ヒエラルキーの頂点に立つ兵藤会長の前ではなすすべもなく保身に走ることに……。
その後も上からの圧政と下からの突き上げに頭をかかえ、ストレスをためていく日々が描かれる。
年齢を重ねた男の渋さと悲哀。本編以上に人間味にあふれる利根川の右往左往が魅力的だ。
巻末には御大・福本伸行による特別描きおろしエピソードも収録されているので、読み比べてみるのも楽しい。
コミックス発売後、あまりの反響により即重版決定というのも大納得!
圧倒的オススメの中間管理録コメディだ。
<文・奈良崎コロスケ>
マンガと映画とギャンブルの3本立てライター。中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしている。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)。『ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE』(2月13日公開)のパンフレットに参加しております。