前述したように『コミックいわて』の売りあげは好調だったが、発売から2ヵ月足らずで東日本大震災に見舞われる。
『コミックいわて』は、第3刷分から売りあげの一部を災害義援金にあてることをすぐさま決定。
企画されていた第2弾の作業は一時中断となるが、「こんなときだからこそ岩手の魅力を発信することで、復興に必要なつながりの力を育みたい」(達増知事)という気持ちから刊行に踏みきる。
その結果、第2弾では、さいとう・たかを(大阪出身で仕事場は東京だが、妻の故郷・岩手にも住居がある)、三田紀房、月子とさらに多彩な顔ぶれが参戦。さいとうは被災地を訪れた時の心情を綴り(『雪やこんこ』)、三田は岩手県人気質を方言オンリーで描き(『岩手の人々』)、月子は盛岡市民に愛される福田パンへの想いを『彼女とカメラと彼女の季節』のスピンアウトというかたちで放出(『彼女とカメラと彼のパン』)した。
2014年3月刊行の『コミックいわて from WEB』以降は「コミックいわてWEB」との完全連動体制となる。岩手県出身or在住という縛りも広くなり、たとえば大阪出身のひうらさとる(『22時間弾丸あまちゃん久慈ツアー!』)のように、三陸海岸沿いを舞台にしたドラマ『あまちゃん』の熱狂的なファンということでも参加が可能となった。
また、年に1冊ペースではあるが、シリーズ連載を続けて人気を博している作品もある。
一関市に在住する飛鳥あるとの『キリコ、閉じます!』がその代表だ。
ヒロインは霊視能力を持つ女子中学生のキリコ。目に見える幽霊にとくに害はないが、消えてほしいときは心に願いながら目を閉じると成仏してくれる。
そんなある日、キリコの親友・真帆のご先祖様で、平安時代に「蝦夷(えみし)」と呼ばれた陸奥の英雄・アテルイが黄泉の国から現れて……。
オカルトベースながらシリアスとコメディが絶妙にブレンドされ、ご当地ネタもふんだんで楽しい逸品。
ぜひともコミックス化して、広く読まれてほしい。
地方活性化や地域振興をうたってマンガとコミットする自治体は多いが、成功を収めたといえる例は少ない。
しかし『コミックいわて』シリーズは、達増知事が無類のマンガ好きという根っこをベースにトップダウンで企画を立案し、責任編集というプレッシャーを自身に課してタクトをふるったことに芯の強さがあった。
そして、そんな知事の心意気に賛同した岩手県ゆかりの漫画家たちが、楽しんで新作を描きおろしたことで上質のアンソロジーとなったのだ。
また、未曾有の大災害を挟んで、4年、5年と継続している点もすばらしい(地方活性化事業は、とかく打ち上げ花火になりやすい)。
少しずつ世代交代しながら、10年、20年と続けてほしいシリーズである。
<文・奈良崎コロスケ>
マンガと映画とギャンブルの3本立てライター。中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしている。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)。