主人公の久美子が、中学時からユーフォニアムの経験者でありながら、当初高校で吹奏楽を続けることにさほど乗り気でもなかったという設定がまたリアル。
昨今、よい成績を目指すゆえに指導者から虐待まがいの精神的な苦痛を強いられる「ブラック部活」なる言葉もあり、「部活は何のためにやるのか」という論議が盛んになっている。本作は、そのひとつではない答えをめぐる物語でもある。
部活で「がんばる」には、部員同士の信頼関係がなくてはならない。
本作は、女子高生たちのちょっとした会話からそのなかにある人間関係と、それが少しずつ成熟していくさまを読ませるのが魅力だ。
担当楽器別に練習することも多い吹奏楽部ならではの、パート別の先輩後輩関係。
コンクールで勝つことを主眼に置くならば、上級生よりもうまい下級生をメンバーに抜擢するのは当然と理解はしても、どうしても嫉妬心は生まれるもの。
くやしい気持ちをどうプラスに転じられるかは、自分の心の問題だけでなく、部全体や一人ひとりを見渡し、愛し、理解する心根が必要となる。ひいては、他校のライバルたちをも。
久美子のように決して前のめりではない女の子だとしても、あたりさわりない傍観者でいてはならないのだと――本作は教えてくれるように思う。
さて、厳しい夏合宿を前に、浴衣で花火大会、プールなど女子同士で夏を満喫する場面もいっぱい(個人的には、いつもはキリッとしているあすか先輩の意外なセクシースタイルがイチ押し!)。
たまのオフでもやっぱり話題にあがるのは部活のことばかりだ。学校では口にしにくい、ちょっと突っこんだ話もできたりして。
現実ではもう夏は去ってしまったけれど……より、心の絆を深めあう女子高生たちのまぶしい夏を味わってほしい!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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