複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「カントリーマアム 国産ごぼう味 発売の件」について。
『ものと人間の文化史170 ごぼう』
冨岡典子 法政大学出版局 ¥3,000+税
(2015年6月11日発売)
来週9月27日、食品メーカー「不二家」から、人気商品「カントリーマアム」シリーズの新商品が発売されることが明らかになった。
それが「カントリーマアム Veg 国産ごぼう味」である。
ご、ごぼう……?
そもそも「カントリーマアム」は、手作りを思わせるような独特なシットリ感が特徴的で、多くのユーザーに支持され続けているチョコチップクッキーだ。有名人では、明石家さんまが自身のラジオ番組「MBSヤングタウン土曜日」のなかで、好物であることをたびたび公言している。
古きよきアーリーアメリカンを思わせるような、アメリカのおっ母さんが丹精込めて焼きあげたイメージの商品だ。
それに対してごぼうは、最近でこそ豊富な食物繊維が若い女性からも注目されるようになり、ごぼうチップスなど多彩な商品展開を見せるようになってきたものの、日本各地の郷土料理を彩る食材として「おふくろの味」の印象が根強い。
つまり「カントリーマアム Veg 国産ごぼう味」とは、マアム&おふくろの「日米おっ母さんドリームタッグ」なのである。
まさに味の日米同盟や!
(……まあ、もっとも過去には宇治金時味や丹波黒豆味なんかも出ているのだが)
ともあれ、この発表がされるやいなや、ネット上では発売を待ちのぞむ声があふれた。みんなおっ母さんのトリコである。
そこで今回は、せっかくの機会なので、ゴボウについてマンガで勉強していこう。
『銀河パトロール ジャコ』
鳥山明 集英社 ¥440+税
(2014年4月4日発売)
まずはその名前について。
ごぼう(牛蒡)は英語では「burdock」、バーダックと読む。
バーダックといえば、『ドラゴンボール』シリーズの主人公・孫悟空の父親を思い出すだろう。悟空の父の名前は、ごぼうに由来するのだ。
父はバーダック(ごぼう)、長男はラディッツ(ラディッシュ=ハツカダイコン)、次男の悟空はカカロット(キャロット=人参)と、まさに根菜大好き一家なのである。
バーダックが登場する作品としては、『銀河パトロール ジャコ』のコミックス巻末に収録された「スペシャルおまけストーリー DRAGON BALL -(マイナス) 放たれた運命の子供」をオススメしたい。
カカロットが惑星ベジータから地球に飛ばされる顛末が明かされるサイドストーリーであり、そこにはバーダックと妻ギネ、つまり悟空の父と母が登場するのだ。
「カントリーマアム Veg 国産ごぼう味」は国産ごぼうの使用をうたっているが、惑星ベジータ産のごぼうの味も堪能しておきたい。
『中公文庫コミック版 はだしのゲン』 第1巻
中沢啓治 中央公論社 ¥705+税
(1998年5月発売)
さて、ごぼうの英語名を紹介したが、そもそもごぼうは日本以外の地域では、あまり食べる習慣がない。
第二次大戦中、日本軍が米兵捕虜に食事としてごぼうを食べさせたところ、戦後になって「木の根を食わされた」と訴えられたという逸話を、聞いたことがあるはずだ。
この逸話の出典は方々にあるが、マンガが果たした役割も大きい。
中沢啓治『はだしのゲン』もそのひとつだ。
原爆投下後の広島で、ゲンや近藤隆太ら孤児たちは、元新聞記者の平山松吉と行動をともにするようになる。
ゲンは松吉の書いた小説を出版するために東奔西走するが、中本印刷所のオヤジは
「原爆のおそろしさとひどさを書いた本をつくってみい」
「わしゃGHQ(連合国軍総司令部)につかまってデス・バイ・ハンギングじゃ」といって拒否する。
さらに日本の衛生兵にごぼうを食べさせてもらった米兵捕虜が、のちに極東軍事裁判で「木の根を食わされてひどい目にあった」と証言し、衛生兵は「重労働三十年の刑」に処せられた話をゲンに聞かせるのであった。
『はだしのゲン』は小学校の図書館にも置かれたので、本作でこのエピソードを読んだ読者も多いことと思う。
実際のところ、ごぼうは食物繊維が豊富なだけではなく、高血圧や動脈硬化の予防効果もある。いたって健康的な食材なのだ。
『花咲く乙女たちのキンピラゴボウ 前篇』
橋本治 河出書房新社 ¥830+税
(2015年8月6日発売)
そしてごぼうを使った代表的な料理といえば、きんぴらごぼうだ。
『花咲く乙女のキンピラゴボウ』は作家・橋本治の評論集であり、マンガ作品ではない。
しかし、河出書房新社の公式サイトの同書の紹介文に「少女マンガが初めて論じられた伝説の名著!」とあるように、メディアで初めて少女マンガを評論した作品である。
もともとは雑誌「だっくす」(のち「ぱふ」に改名、 雑草社)に橋本治が連載していたマンガ論であり、初出は河出文庫から1979年に刊行された。
萩尾望都、山岸凉子、大島弓子の「花の24年組」を筆頭に、陸奥A子や倉多江美などについて論じているが、単なる作品論・作家論にとどまらず、少女・女性・母のジェンダーロールについても言及していた。
少女を象徴する「花咲く乙女」と、母を象徴する“おふくろの味”の「キンピラゴボウ」をタイトルに冠しているところにも、著者の狙いが表現されている。
80~90年代のサブカル・マンガ界隈では必携の書とされていたものの、近年は手にいれにくい状況が続いたが、昨年、河出書房新社から上下巻で復刊された。マンガ好きであれば、ぜひ一度は手にとっていただきたい一冊である。
じつは「カントリーマアム Veg」シリーズは、「国産ごぼう」と同時に「五郎島金時芋」も発売される。インパクトの大きさ、味の想像がつかないミステリアスさがあいまって、いまのところ「ごぼう味」の話題が先行し、注目度の点では「五郎島金時芋」をごぼう抜きにした印象だ。
とはいえ、「五郎島金時芋」は味を想像しやすい、というか普通においしそうである。
食欲の秋、読書の秋。「カントリーマアム」をつまみながら、秋の夜長はマンガを読みふけってはどうでしょう。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama