「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、TVアニメ『ユーリ!!! on ICE』
今季、話題を集めるアニメのなかでも、ひときわ熱い視線を浴びているのが『ユーリ!!! on ICE』だ。
ジャンルは、フィギュアスケート・男子シングル。じつはこの競技は、アニメの鬼門といえる。なぜなら、現実の競技自体が、氷の上で超人的な技を次々に繰り出し、音楽の解釈や内面に燃えたぎるものを体いっぱいに表現する、まるでアニメのようなもの、といえるから。よって、生半可に描いては本物の興奮に追いつかない。
そんな不安を抱いていたフィギュアスケートファンも少なくないと推測されるが、本作の原案を務める久保ミツロウさん、山本沙代監督、制作会社MAPPAが丹念に取材し作り上げた迫力ある滑らかな動き、加えてアニメならではの迫力や華やかな演出は圧倒的だ。
主人公・勝生勇利は23歳、男子フィギュアスケートの特別強化選手だ。日本のエースと称される。しかし昨シーズンは惨敗し、引退も考えながら故郷の九州・長谷津村に。勇利は悶々と悩む。
ところが、ひょんなことから、勇利が憧れていた絶対王者である、ロシアのヴィクトル・ニキフォロフ選手が勇利に興味を抱き、コーチを名乗り出て長谷津へやって来た。それを知った血気盛んなロシアの若手選手、ユーリ・プリセツキーも襲来し、ヴィクトルの指導をめぐって熱いバトルが繰り広げられる!
師弟、ライバル、友情など男子スポーツものらしい関係性が満載だ。フィギュアスケートはきらびやかなイメージがあるが、さびれかけた田舎の温泉街が舞台なのが敷居を低くしてくれる。
原案(ネーム作成)は、『モテキ』『アゲイン!!』の久保ミツロウ。テンポのよいセリフ回しで、勇利を翻弄するヴィクトルの、毒っ気のある自由人ぶりが軽妙に表現される。タッグを組む監督は『LUPIN the Third ─峰不二子という女─ 』で女性ならではの繊細な色香を表現した山本沙代だ。ちなみに勇利の実家は温泉宿で、(男湯の)入浴シーンも頻出する!?
しかし、本気のセクシーはやはり氷上で発揮される。もちろんヴィクトルのスケートシーンは色気たっぷりだし、ヴィクトルから勇利に与えられたテーマは「エロス」。奥手な勇利には不得手とされるものを、どのように引き出され、つかみ取っていくか。その過程は成長譚、または復活の物語としてだれもが楽しめる。
意外に泥臭い選手たちの練習風景にも、胸が熱くなる。闘志を燃やすユーリも含め、グランプリシリーズ(キー局のテレビ朝日が10月から放映し続けている国際大会そのものなので、臨場感が増す!)優勝を目指して戦っていくうえで出会う、個性豊か過ぎる選手たちも魅力的だ。
著名な振付師で、数々の名選手の振付を担当している宮本賢二が、彼らのプログラムを手がけており、こちらでも推し選手ができてしまいそう……。
おまけに主題歌を歌うDEAN FUJIOKAの美声も高ポイント! スポーツ、フィギュアスケート好きならもちろん、アニメで超絶な動きを楽しみたい人にも、速攻で見ることをお勧めしたい。
TVアニメ『ユーリ!!! on ICE』を観たあとに……
今回、TVアニメ『ユーリ!!! on ICE』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしい作品を紹介しちゃいますよっ。
『銀盤騎士』小川彌生
『銀盤騎士』第1巻
小川彌生 講談社 ¥429+税
(2013年3月13日発売)
『ユーリ!!! on ICE』と同様、フィギュアスケート男子の世界を描いた作品。
無口でクール、実力も人気もピカイチのスター選手・雉子波心。幼なじみの健康雑誌編集者・猪狩千登勢は、試合前に彼を「元気づける」密命を受けていて……と、乙女にはたまらない設定だ。
だが、その方法とは、ガチオタの心のため「魔法少女アニメの呪文を唱えてあげること」であった! おまけに、心はヘタレな上にコテコテに訛っている残念なイケメンである。
が、銀盤で四回転ジャンプを決める姿はやはり「騎士」そのもの。なにかと障害が多い千登勢と心のじれったい恋模様と、アスリートを支える苦楽がどちらも味わえる。
『弱虫ペダル』渡辺航
『弱虫ペダル』第1巻
渡辺航 秋田書店 ¥419+税
(2008年7月8日発売)
メガネ男子スポーツものならば、こちらもオススメ。
総北高校のひ弱なオタク少年・小野寺坂道は、秋葉原への往復90kmをママチャリで通う強靭な脚力を持っていた。自転車部に所属し、ロードレースでインターハイへも出場するうちに、坂道はより速く走る楽しさや、仲間とともに苦境を乗り越える喜びに目覚めていく。
リアルな自転車競技の描写も、超人的なキャラ造形も読み応えあり! 試合を通してライバルとも友情を結ぶ展開は、王道だが燃える。なお、坂道は競技中もメガネを装着している(風のため、自転車競技にはコンタクトは向かないそう)。
<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。