本作は主人公がひろしということもあり、本家「クレしん」よりちょっぴり大人仕様。
ドライカレーを食べる回では、若かりし日の苦い恋の思い出を回想するシーンがあり、これも本作ならではの見どころといえる。
さて、こちらはちょっと変わりダネ、部下の川口とパンケーキを食べにきたひろし。
落ちこんでいる川口を励まそうと、女子に人気のパンケーキ屋にやってきたのだが、場の空気を楽しもうと、女子になりきってスイーツを堪能する。
「みごとだなぁ」と感嘆させられるのは、第1巻の締めくくりのページだ。
「ごちそうさまぁ」
「ああうまかった」
「さぁて午後もガンバろう!!」
こういう、いかにも平凡なセリフが似合って、みじんも嫌味を感じさせないところが、野原ひろしというキャラクターのすごみだと思う。
この3コマのような表現から、読者は、「野原ひろし」というキャラクターは、どこにでもいる日本のサラリーマンなのだと、ストンと納得してしまう。
昼メシ時に見せるひろしの言動は、サラリーマンの思いを代弁するものでもあるのだ。
平凡な生活を送る“普通の人”の気持ちをすくいとり、ギャグを織りまぜたマンガ表現に落としこむ――それが、『クレヨンしんちゃん』の真骨頂だ。
その意味で、しんのすけもみさえも、風間君もまつざか先生も、そしてもちろんひろしも、あなたであり、私だ。
『野原ひろし 昼メシの流儀』は、変わったことは起こらない、とりたてて豪華な食べ物が登場するわけでもない、平凡なグルメマンガだ。
しかし、大人の日常をくるりと抱きこんでくれる、その懐はとても深くて、優しい。
<文・片山幸子>
編集者。福岡県生まれ。マンガは、読むのも、記事を書くのも、とっても楽しいです。