岩明にとって本作は、初の原作担当マンガである。
1巻のあとがきにもあるように、岩明は一貫して“出来事”を主軸にして作品を生み出してきた。
これは昨今のマンガ制作事情とは大きく異なる。現代マンガの大半は、まずキャラクターありき。
主人公がいくつもの困難を乗り越え、心境や環境が変化していくというプロセスでつくられているからだ。
しかし岩明はまず“出来事”があり、そこにキャラクターを寄せていく手法をとっている。
だからして本作も、“死にたがりの少女戦士”という特異なキャラクターから話を転がしていったわけではなく、もともとは別の主人公(歴史上の実在人物)を立てていたそうだ。
過去の岩明作品を脳内でひもといてみてほしい。「なるほど……」と納得される諸兄が多いことだろう。まずキャラクターありきで、読者の反応を見ながら展開を変化させていくような作品ではない。
裏を返せば、それは弱点でもある。あとがきで岩明自身が述べているように“独りよがり”になってしまうケースがあるからだ。
もちろん、これまでの岩明作品に独りよがりなタイトルはひとつもない。しかし、ここに読者サービスをしっかり考えることのできる作家が加われば最強なのではないだろうか? こうして抜擢されたのが室井大資である。
自分を助けるために両親と弟が惨殺されるのを目の当たりにしたことで、人間としての何かが欠落してしまった少女。
彼女は一刻も早く家族のもとへ逝くため、“守るべきだれか”のために命を投げ出す覚悟を決めている。
感情を失った破滅型のヒロイン像が浮かび上がるが、そこに室井が人間臭い血肉を加える。
雑兵たちとの鍛錬で興奮状態となる様、命の恩人である丹波に抱く敬愛の念と惜別、自分の実力をはるかに超える相手との対峙、夢想する家族団らん……。それぞれの場面で見せる表情の変化がすばらしく、読み手は激しく心を揺さぶられる。
ひとたび読み始めたら最後、ページを繰る手が止まらず、「まだ導入部分にすぎないのに、ここまでワクワクさせてくれるのだから、この先、どれだけおもしろくなるんだろう……」と鼻息が荒くなることは必至。
2巻の終盤では、ついに信長が登場する。
レイリたちが生きる天正7年の3年後には、この男の手により甲州征伐が行われるのだ。武田滅亡へのカウントダウンが始まる激動の時代に、レイリの運命がどのように翻弄されていくのか――。
あー、早く続きが読みたい!
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。