「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、TVアニメ『ACCA13区監察課』
2013年6月~2016年10月に、月刊「ビッグガンガン」にて連載されたオノ・ナツメの人気作のアニメ化作品。
放映開始前の注目度がきわめて高かったばかりか、放映開始直後から原作未読の視聴者にもダークホース的存在として認知され、人気をかっさらっている。
タイトルから内容は想像しにくいが、舞台は13の自治区から成る「ドーワー王国」で、「ACCA」とはこの架空の王国の平和と秩序を守る組織の名称である。
「ACCA」は警察、消防、医療各局を傘下に置く、中央議会(政治)とは切り離された独自組織として、各自治区に置かれた支部毎に運営されており、各自治区の「ACCA支部」を束ねる上位組織として「ACCA本部」があり、なかでも各支部の業務監視を行うのが、タイトルにある「監察課」というわけだ。
さて、主人公はこの「監察課」の副課長で、“もらいタバコのジーン”の異名を持つジーン・オータスである。超高級マンションに妹・ロッタとふたり暮らしで(じつは管理人家業だけど)、高額課税により超高級品とされるタバコをスパスパ吸う愛煙家(異名の通りもらいタバコだけど)の彼は、監察課という職業のせいか(本部勤務者はエリートなのだ)、はたまた金髪碧眼という容姿のせいか(ドーワー王国は多民族国家なのだ)、何かと人目につきやすい人物のようである……のだが、それはさておき、物語は彼の通常業務と日常を描くところから始まる。
第1話では、ジーンがいつものように視察へと向かおうとした朝に、突然「監察課の廃止」が通告されるのだが、視察先でジーンが不正を摘発したためか決定は覆り、監察課は存続することに……。
そんな始まり方ゆえ、当初はこの作品を、視察先におけるジーンの活躍を描く、遠山の金さん的な勧善懲悪もの、と予想した人もいたかもしれない。(え、いない?……汗)
しかし、ひょうひょうとしてつかみどころのないキャラクターとして描かれるジーンの活躍劇の裏で、すでに壮大な物語は動き初めていた。というのも、「ACCA」の最高幹部とされる「ACCA5長官」のなかで、廃止派から存続派に転じた長官・グロッシュラーが、だれかにそっと指示を下すのだ。
「ジーン・オータスの監視を頼む」と……。
そんなことはつゆ知らず、視察で各地を飛びまわるジーン。まもなく視聴者に明かされる、彼が監視される理由、それはクーデター計画における水面下でのパイプ役という嫌疑。しかもジーンを監視するのは、同じACCAの内務調査課の人間であり、彼にとって唯一無二の親友・ニーノだった……。
まだまだジーンのまわりには、様々なキャラクターが集まり、通りすぎていく。たとえば5長官のひとり・リーリウムがコンタクトを図ってきたり、美人本部長モーヴが内密の協力を呼びかけてきたり、バードン支部の新米巡査・レイル局員が絡んできたり……。
そう、私たちは決して忘れてはいけないのだ、この作品を生んだのはオノ・ナツメであり、氏の描く人物たちは豊かな表情の下に複雑なる思いを隠すことに長けており、また氏の紡ぐ物語は人間の思惑の交錯によってミステリアスな興奮をもたらすのだということを。
小気味よく進むストーリー展開は、今後中盤からクライマックスまでますます勢いに乗って見逃せないこと必至だが、ほかにもオープニングのカッコよさ、多彩で魅力的なキャラクターたち、ジーンが視察に訪れる各自治区の多様な風土、文化、民族といった設定と描写の細やかさ、そして全編を通じて物語により沿う、鮮やかで華やかでおいしそうなおやつやパン(とりわけトースト)たち……。
この作品の魅力はあまりにも多すぎて、ちょっとやそっとでは語り尽くせないということは、まだ本作を観ていない人でも、ほんの数分の視聴で伝わると確信する。
あなたもカラフルでちょっぴりファンタジーなドーワー王国に渦巻く陰謀の行く先を、その目でともに目撃しようではないか!
TVアニメ『ACCA13区監察課』を観たあとに……
今回、TVアニメ『ACCA13区監察課』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしい原作マンガを紹介しちゃいますよっ。
『ACCA13区監察課』オノ・ナツメ
『ACCA13区監察課』第1巻
オノ・ナツメ スクウェア・エニックス ¥590+税
(2013年11月25日発売)
アニメの原作となっているコミックス『ACCA13区監察課』は、先日第6巻で完結。現在は月刊「ビッグガンガン」にて番外編『ACCA13区監察課 P.S.』が連載されている。
13自治区で成り立つドーワー王国の自治制と平和を維持、統括するための組織「ACCA」。警察から医療までコントロールする巨大組織のなかで不正監視する監察課は、形骸化を理由に廃止の動きが高まっていたが、副課長ジーン・オータスの不正摘発実績により廃止を免れる。やがてそこに、王国のクーデターを巡る陰謀が見え隠れし始め……。
細かい描写や説明など情報量が多く、アニメから入った人もより深くキャラや設定を知ることができ、いっそう楽しめる本作。アニメ放映とほぼ同時に完結しているので、コミックス一気読みで“ACCA欲”を満たそう!
原作マンガのほかに、このマンガもおすすめ!
『さらい屋五葉』オノ・ナツメ
『さらい屋五葉』第1巻
オノ・ナツメ 小学館 ¥602+税
(2006年7月28日発売)
オノ・ナツメ作品でひと足お先にアニメ化を果たしたのが、『さらい屋五葉』だ。
極度のあがり症からまともな職へつくことができない浪人の秋津政之助は、ひょんなことから出会った弥一の用心棒として活躍。その腕を見込まれ盗賊団「五葉」へと誘われる。
五葉のメンバーは、優しく慕われるがどこか本心が見えない弥一を筆頭に、ただ妹のために生きる居酒屋の店主・梅造、色香を体にまとう美女・おたけ、そして弥一に絶対の忠誠を誓う飾り職人の松吉。突然加わった天然ボケだがどこか憎めない政之助が加わり、人間模様は変化し始める。
そして、それは五葉とそれに関わる人々も巻き込んでいくのだった……。
これまでイタリアを題材に作品を出していた作者が、突然江戸時代をテーマに、しかも人情モノを描いた本作。著者特有のハイセンスな作風にどっしりとした読みごたえを加えた傑作であることは間違いない!
<文・藤咲茂(東京03製作)>
美酒佳肴、マンガ、ガンダム、日本国と陸海空自衛隊をこよなく愛し、なんとなくそれらをメシのタネにふらふらと生きる編集ライター。