『前田利家』は、利家の半生を描いた人物評伝である。
とはいえ、実際に利家が出陣した合戦のシーンを中心に構成されているので、全体のテイストとしては「戦国バトルアクション」ともいうべき活劇に仕上がっている。
戦国乱世の戦場を縦横無尽に暴れまわり、敵兵をバッタバッタとなぎ倒していく「槍の又左」(利家の異名)の活躍ぶりに胸が高鳴るだろう。
史実における利家の晩年は、豊臣政権の重鎮となり、加賀百万石の基礎を築いたように、有能な為政者としてのイメージが強い。だが若い頃は「槍の又」の異名を取った「いくさ人」であった。
本作『前田利家』は、利家初陣から最後に陣頭指揮を執った「末森城の戦い」(1584年)までを題材にしており、「為政者」としての側面ではなく、「いくさ人」としての顔を大々的にフィーチャーしている。
このような「いくさ人」としての利家の物語を中心軸に据えながら、秀吉との友情物語や、佐々成政とのライバル物語が挿入されるので、前田利家という人物の様々な側面を多面的にとらえることができる。
また、利家の前半生において、見逃せないのは織田信長との関係だ。
尾張時代の信長は、派手な格好をして、仲間たちと連れ立って町を練り歩くような「かぶき者」だった。利家はその時代からの家臣であり、いわば「かぶき者」仲間であったわけである。
そこから利家を「かぶき者」と解釈して、本作の利家の人物像が練りあげられていく。
そして信長といえば、書状にみずから“第六天魔王信長”と署名したことでも知られている。『魔王ダンテ』や『デビルマン』などで、数々の魔王を描いてきた当代一流の悪魔絵師・永井豪が、いったいどのような「魔王信長」を描くのか。そこも興味は尽きない。
永井豪はこれまで『ズバ蛮』(1971年)や『黒の獅士』(1978年)などで信長を描いてきた。これらの作品の場合、信長は未来人や宇宙人から超越的な力を与えられた存在であったが、本作『前田利家』では利家の最大の理解者であり庇護者であり、そして理解不能な存在としても位置づけられている。
この信長と利家の主従関係も、本作の見どころのひとつといえる。
このたび宝島社より『前田利家』の新装版がリリースされることになった。
永井豪の描く“豪”快な快男児の活躍を、じっくりと堪能してほしい。
同時発売の下巻も見のがすな!!
『このマンガがすごい! comics 前田利家 下 決戦!本能寺』
永井豪・ダイナミックプロ作品 宝島社 ¥630+税
(2017年2月20日発売)
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<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
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