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【インタビュー】押見修造『血の轍』 「これを描いたら引退してもいい」!? 読者に衝撃をあたえた、あのシーンの秘話も!?

2018/05/03


アナログ作画で表現する 主人公・静一の目を通した世界

――静子ママの表情についてお聞きしたいのですが、その前に絵柄について。『惡の華』の途中でデジタルからアナログに移行しました。今作は?

押見 今作は完全にアナログです。

――その意図をお教えください。

押見 全体を「主人公の静一の目を通した世界」として描きたかったからです。いわゆるマンガの背景って、写真をトレースしたような、写実的なものが理想とされるのかもしれないんですけど、僕は現実の風景をスケッチしたような感じにしたいんです。記憶のなかとか、思い出のなかみたいな印象をだしたい。あまり風景がパッキリしていると、静一の目を通した感じにならないんですよ。

手描きの温度感が伝わる背景は、どこか懐かしいような気さえしてくる。

――「静一の目」というフィルターを通した世界だから、静子ママは若くて美人に描かれているわけなんですね。

押見 そうです。あくまで静一が見ている世界。静一の感情が乗っかっている視界。

とたんに揺れはじめる世界は、静一の精神状態と確実にリンクしている。

――たしかに写真を見た時に「あれ? この人こんな顔だっけ?」と、自分の記憶と食い違うことはあります。

押見 ありますね。客観的に見た世界ではなくて、静一の感情が乗っている主観的な世界。それを追体験できるのが理想だと思っています。

――本作はものすごく内省的な話でありながら、ほとんどモノローグがありません。すべて絵で表現しているところがすごいと思います。

押見 基本的にモノローグはいらないと思っているんですよ。静一が、まだ自分の言葉を獲得していない人格である点も要因として大きいです。静子ママにくっついていて、取りこまれている状態。人格がまだ確立していないのにベラベラとモノローグでしゃべっちゃうと、こぼれていくものが多いんです。言葉になっていないものを描かないと、感じがうまくだせない。

――表情で、いろいろな感情を表現していますね。

押見 表情はいっぱい描き直します。本当の表情というか……、記号的に見えちゃうとダメだと思うんですよ。

――マンガ的な表現も使わないですよね。漫符とか。

押見 漫符は最近とみに使わなくなりましたね。第1集や第2集では、困った時や追い詰められた時に記号的に汗をかかせましたけど、もう汗も要らないかな、と思ってます。

――記号的な表現だと「こぼれていく」部分がある、ということなのでしょうか?

押見 「こういう時、人はこういう表情するんだ!」と思ってもらえれば勝ち、と思っています。というか、一回負けたらずるずるいってしまうので、ずっと勝っていかないといけない。ひとつひとつが勝負だぞ、と自分に言い聞かせています。

同席編集者 「表現力のある目」って、よく聞くじゃないですか。でも特にこの作品の場合、口の描き方に特徴があると思うんですよ。心に迫る「口の表現」というのは、あまりないものだと思っています。

――たしかに!

押見 そういえば口のアップが多いですね。いまいわれるまで、まったく自覚なかったですね(笑)。

様々な場面で登場する、"口の表情"。
目で描くのとはまた違う感情が迫ってくる。

普通の人の心に生じるズレ

――"血の轍"というタイトルの由来をお教えください。

押見 これはボブ・ディランのアルバム『血の轍』からです。そのアルバムが、本作の重要なファクターになっているとか、そういうことではないんですけどね。あくまでタイトルだけなんですけど、すごくシックリきたので。

『血の轍』
ボブ・ディラン ¥2,100+税
(2014年4月23日発売)


――ボブ・ディランはお好きなんですか?

押見 すごく好きです。13~14歳ごろから大好きです。

――押見先生のお気に入りのキャラクターって、います?

押見 キャラ……。ああ、キャラを愛でる気持ちが、まったく湧いてこないマンガなので、今の今まで考えてませんでした(笑)。「このキャラかわいいな」みたいなテンションではないです。でも……、そうだなぁ、しげちゃんは筆が運びやすいですね。

――屈託のない意地悪さがありますよね。

毎週遊びにやってくる、親戚のしげる。その意地悪さは、天然……?

押見 性根は悪そうですよね(笑)。こういうヤツいるよな、と思ってもらえれば。

――今作を描くにあたって、なにか参考にされているものとか、ありますか?

押見 「テレフォン人生相談」(ニッポン放送)というラジオ番組はいつも聞いてます。肉声で相談するところが非常におもしろいんですよ。子供が不登校とか、DVとか、わりとハードな相談が多いんですけど、相談者がいっていることと本心に、たいていはズレが生じているんです。たとえば相談内容が「子どもが不登校なんですが、どうすれば学校に行くようになってくれるでしょうか?」であったとしても、本当はそんなことはどうでもよくて、「子供が不登校になって、“私が”今つらいんです。私のつらさはどうすればいいのでしょうか?」が本当の悩みだったりするんですよ。そういったズレが、肉声だとすぐわかる。キャラクターづくりの勉強になりますよ。

――そのズレに気づかせてもらえるわけですね。

押見 たいていの人は、自分のつらさを分析せずに、人生は過ぎていってしまいます。本人の実感がともなわなければ、いくら分析しても意味がないんでしょうけどね。

――そのつらさやズレをはらんだ親子関係のなかで、不幸な事件が起きたりもするじゃないですか。

押見 いま僕は子どもがいて愛情を注げていると思っているんですけど、とはいえ、親が子を殺す心情が1ミリも理解できないかというと、そんなことはない。わかる部分もあるとは思うんですよ。

――実際にやるかどうかは別として。

押見 ええ。心情として理解できる部分は、だれにでもあるんじゃないでしょうか。

――たとえば身内が寝たきりになると、当然かいがいしく面倒は見ても、ふとしたタイミングで介護疲れしたりします。

押見 「早く死んでくれねぇかな」と思うことはあるでしょうね。100%の善人も悪人もいなくて、自分でも自覚できていなかったりしますから。それを踏まえたうえで、静子ママの性格とか人格に注目してもらえれば、と思います。

――それは「静一の目」というフィルターを通したものとして、作中で提示されるわけですよね?

押見 もちろんです。それ以外は描かれないので。まぁ、どう読んでいただいても構わないんですけど、「こういう出来事が過去に起きたから、それがトラウマになって、静子ママはこういう人格になりました」ということがキモではないので、そういった謎解き的なスタンスとは違う読み方をしてもらったほうが楽しいかもしれません。

――特別な経験をしてトラウマを抱えた人がモンスター化するのではなく、普通の人がこうなる怖れがあるよ、という恐怖だと思います。

押見 みんな普通にそのへんにいる人なはずですからね。

単行本情報

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