『古事記巻之二 完全版 神武』壱
安彦良和 KADOKAWA \780+税
1919年9月10日は、大日本蹴球協會(日本サッカー協会の前身)が設立された日だ。
この大日本蹴球協會の設立、もともとはFA(英国サッカー協会)が日本にも全国規模の組織と大会ができたと勘違いし、シルバーカップを日本に送ってきたことがきっかけ。シルバーカップの受け取り先となる団体として組織したのが、大日本蹴球協會である。
このシルバーカップは、のちに天皇杯優勝チームに授与されるようになる。戦時中のドサクサに紛れてカップは紛失する(2011年にFAが復元、再び日本に贈呈)が、ともあれサッカーの母国の勘違いが、日本にサッカー文化の土壌を切り開いた。
さて、日本サッカー協会のシンボルマークといえば八咫烏だ。日本代表のユニフォームにもデザインされているから、見たことがある人も多いだろう。
八咫烏とは、『古事記』や『日本書紀』に登場する、神武天皇の東征の際に道案内をした、3本足のカラスである。
安彦良和『神武』は、神武天皇の東征を題材とした作品。本作の主人公ツノミこそ、賀茂建角身命(カモタケツヌミノミコト)、すなわち八咫烏そのものである。
ツノミは「まっくろによう陽に灼けてまるでカラスじゃ」といわれ、作中でも八咫烏との関連性がほのめかされる。
作者の安彦良和は、近年では『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』でその名を知ったファンも多いだろうが、漫画家としては『虹色のトロツキー』など、数々の歴史大河作品を手がけており、複雑な人間模様を描くのはお手のもの。さらに、女性が色っぽくて魅力的なのも特徴だ。
なかなかとっつきにくい印象がある日本神話だが、それこそ八咫烏のツノミを道案内として、本作で紐解いていくといい。
なお本作は、同著者による『ナムジ』(主人公はツノミの父)の続編。そのため「古事記巻之二」のサブタイトルがついている。
この日本古代史シリーズは、いわば安彦良和のライフワークであり、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の連載終了後、「サムライエース」(KADOKAWA)で「古事記巻之三」となる『ヤマトタケル』が開始された。しかし、現在は「サムライエース」休刊にともなって休止中。連載再開が待ち望まれる。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama