人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、雲田はるこ先生!
『このマンガがすごい!2012』でオンナ編第2位にランクインし、マンガファンのあいだで注目を集め、アニメ化などでも話題となった『昭和元禄落語心中』。2016年秋に最終第10巻が発売され、『このマンガがすごい!2017』でもランクインしましたが、そんな大人気作を手がけた漫画家・雲田はるこ先生が新たに連載をスタート! 気になる最新作は直木賞作家・三浦しをん先生原作の『舟を編む』コミカライズです!
今回、『昭和元禄落語心中』ランクインと『舟を編む』上巻の発売を記念して、完結した『落語心中』への想いや新作『舟を編む』のマンガづくりの裏側、そして雲田先生が超ハマっているもの……などなど、雲田先生からいっぱい伺っちゃいました!
一度できあがったキャラは自分のなかにずっと生きています
――『昭和元禄落語心中』(以下、『落語心中』)はたくさんの賞を獲られていますが……『このマンガがすごい!2017』オンナ編7位獲得おめでとうございます。
雲田 最終巻で再びご投票いただいたのが本当にうれしいです。『このマンガがすごい!』で2012年に2位に入れていただいて、そこからすべてが変わったような印象を持っておりますので、とても感謝しています。『このマンガがすごい!』をきっかけに、読んで頂ける機会がだいぶ増えましたね。
――足かけ7年、いろいろな意味で大きな作品になりましたね。
雲田 今はとにかく完結できてよかったなぁと。でも、今でも『落語心中』のキャラクターでなんでも描ける気がするんです。八雲さんのストーリーは終わったけれど。
――長く先生のなかに住んでいるキャラクターたちは連載が終わっても、先生のなかに揺るぎなく生きているんですね。
雲田 『落語心中』にかぎらず、ほかの短編作品の登場人物についてもそうです。デビュー作とか古いものでも。一回できあがっちゃうと、自分のなかにずっといて、呼べば出てきてくれる感じで。
――どんどん人口が増えちゃいますね。
雲田 キャラの生死に関わらず、脳内の“雲田ワールド”で生きてるんですね。これから描きたいキャラを落書きしてみたりするんですけど、その人たちはまだ本当には生きてない。マンガにして動かして初めて立体的になるという感触です。
――雲田先生はやはり男性キャラのほうが描きやすいですか?
雲田 はい、楽しいもので(笑)。『落語心中』の小夏さんとかみよ吉さんは、どうしても描きたいキャラクターというよりは必要だから生まれたキャラクターになりました。だから迷いながら描いていたところがあって。そうじゃなくて「描きたいな」って思う女の子をつくって描いてみるのもいいかもしれない、そういう描き方もできるんじゃないかと最近ようやく思いはじめたりして。
――読み手としても男の子のほうが感情移入しやすい?
雲田 そうかもしれないですね。でも、読者としては好きな女性キャラもたくさんいるんですよ。ただ、描く時はどうしても描きやすいほうに偏っているようです。私、女性が主役のマンガって今までに描いたことないんですよ。
――シンクロしやすいのが男性キャラなんでしょうか。
雲田 あまり、キャラにシンクロするような描き方はしないので、単純に描いてて楽しいのかな。女の子を描くマンガ筋肉をどっかに置いてきてしまったようです(笑)。魅力的な女性キャラをつくることはこれからのテーマになるかもしれません。
『舟を編む』からはたくさんの影響を受けました
――最新作の『舟を編む』とは、雲田先生は長いおつきあいになりますよね。小説連載時の挿絵[注1]に始まり、2016年のアニメ化ではキャラクターデザインという立場を経て、今回コミカライズが実現した経緯は?
雲田 『舟を編む』の連載開始は2009年なので、『落語心中』より前なんです。アニメ化のキャラ原案の打ち合わせの時に、スタッフさんが「マンガ版も見てみたいです」と言ってくださって、初めて現実的に意識しました。ちょうどその頃、『落語心中』が終盤にさしかかっていて、その時期とアニメ放映時期がかぶるので「この次に描けるかも」と。それと同時に、三浦さんと出版社さんに相談を差し上げた感じです。それまでにも何度かコミカライズのお話は頂いていたんですが、『落語心中』の連載中は難しかったので。アニメ化で、あらためて『舟を編む』という作品を見直すこともできましたし。
――いろんな面でいいタイミングだったんですね。三浦先生は、もともとコミカライズに乗り気で?
雲田 ありがたいことに、この作品をコミカライズするなら雲田さんしか考えられないと言ってくださって。とても自由に描かせていただいてますね。挿絵をやっていた当時、三浦さんと一緒に試行錯誤しながら描いていましたから、マンガを描くにあたっても、既にキャラクターが完全にできあがっているわけで。ずっと私のなかにいる、親しいキャラクターを久々に呼び寄せた感じなんです。とはいえマンガを描いてみて初めて気づいたこともありますね。キャラクターがより個性を強くするというか、自分で動かすとその印象が少し変わるので、面白い体験でした。
――三浦先生からのご感想で印象的なことはありますか?
雲田 「雲田さんの馬締くんは変人度が強いよね」と褒めてくださいました(笑)。マイペース感が強いって感じですかね、私の馬締くんは。アニメの優しく不器用な馬締くんとも、実写映画の淡白に挙動不審な馬締くんとも、違う印象になりました。
――馬締くんは、見た目が地味だし、くそまじめでも、朴念仁ではないですよね。なので、コミカライズではころころ変わる豊かな表情が楽しみどころです。
雲田 礼儀正しいけど我が強い性格だと思いました。大家さんに「ヌッポロラーメン」を献上して、香具矢さんに自分をプッシュしてもらおうとするとか、けっこう図々しい(笑)。内向的に見えていざという時、動く時は動くんですよね、仕事の場でも。そういう頼もしさが、とてもかっこよくて。それには「自分の世界を強く持っている」という部分を強調する必要があると、私は思いました。
――恋愛に疎いわりには、香具矢さんと両想いになったあとは、けっこう堂々としてたり……。周囲の目を気にしないですよね。
雲田 そういうところが西岡さんから見ると羨ましいんでしょうね。
――それこそ自分のペースで楽しくやってるように見える西岡さんが、じつは馬締くんに嫉妬しているという構図がたまりません。西岡さんのことも好きになっちゃう!
雲田 いっぽう、馬締くんのほうも西岡さんを羨ましいと思っているんですけどね。そういう関係性がすごくいい。マンガでいうと、第4話からの西岡くん視点のパートになって彼の悩みやコンプレックスが初めて明かされますが、お互いに嫉妬しあうという事は『落語心中』でも描かせて頂いた事ですし、よく思い出しました。何度描いてもいいな、って思いますね。
――西岡さんの内面や、彼がどう馬締くんを見ているのかを通して、読者もより馬締くんを理解できると思うんです。
雲田 第5話(下巻に収録)で、西岡さんって意外と賢いし教養があるんだとわかるところは、描きたかった場面です。やっぱり狭き門の出版社に入るくらいですからね、チャラチャラしててコミュニケーションがうまいだけのわけがない。
――西岡さんといえば腐れ縁の彼女、麗美ちゃんの造形も絶妙です! 西岡さんには「すげーブス」とかめちゃくちゃ言われてるけど。
雲田 マンガではかなり思いきってブサイクめに描いてます。けど体型や雰囲気が美人で、それでモテるタイプの女子、身のまわりにも結構いるんで(笑)。
――メイク前と後のギャップもすばらしい(笑)。
雲田 メイクを落とすと顔がなくなっちゃう友だち、います(笑)。
――美人じゃないけどめちゃくちゃかわいい。表裏のない2人のやりとりが楽しくて、作者に愛されてる感じがします。
雲田 麗美ちゃんみたいな、一見誤解を受けやすい見た目、だけど中身がすっごく素敵な女の子のキャラをつくるのって難しいんです。けど、三浦さんの手にかかると魅力的な子になるんですよね。
――いわゆる「ブスだけどいい子」の典型というより、自分が美人じゃないことも知っていて、かつかわいくあろうと努力もするし気遣いのある人ですね。
雲田 自分のできることをよく把握して、西岡さんの心の寄りどころっていうか、救いになってるなと感じます。香具矢ちゃんみたいなキャラも私だけではつくれないですね。ああいうサバサバしてかっこいい女の子もいいなぁと思います。
――『落語心中』の小夏さんもサバサバ系ではありましたが。
雲田 香具矢ちゃんに比べると、小夏さんは悩みが多いほうですね。
- 注1 小説連載時の挿絵 三浦しをん先生の原作『舟を編む』が女性ファッション雑誌「CLASSY.」にて連載する時、当時、新人だった雲田先生が著者からオファーを受けて挿絵を担当した。単行本化の際にもイラストを担当。そのくわしい経緯は次回のインタビューでも紹介!