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『人形の国』(弐瓶勉)ロングレビュー! 『シドニアの騎士』の著者の最新作!  これは「SF」? …… いや、弐瓶ワールド炸裂の「変身ヒーローもの」だ!!

2017/07/06


話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!

今回紹介するのは『人形の国』


『人形の国』著者の弐瓶勉先生から、コメントをいただきました!

選出いただき光栄です。
みなさんにもっと楽しんでもらえるよう全力で描いていくので応援よろしくお願いします。


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『人形の国』 第1巻
弐瓶勉 講談社 ¥600+税
(2017年5月9日発売)


『BLAME!』『シドニアの騎士』などの代表作を見ても明らかなことだが、その独特の舞台設定と緻密な筆致によって構築される物語――そこは「弐瓶ワールド」としかいいようのない作品世界であるが、最新作『人形の国』も、まさにそんな弐瓶ワールドにどっぷりと浸れることをまずは保証しておきたい。
だが、今作はこれまでと比べると、非常に「わかりやすい」といえる作品でもある。単純にレッテルを貼ってしまうと齟齬が生じるであろうことは承知のうえであえてストレートにいえば、今作はジャンルとしては「SF」よりも「変身ヒーローもの」としての性格が強い。

弐瓶作品の特徴のひとつとしてあげられるのは、独自の専門用語の多さ。今回も「人形病」「ヘイグス粒子」「パイプの実」「エナ」「中央制御層」「正規人形」「鎧化」「破裂螺子」……と、初めて聞く単語が説明なしに頻出する。
すでに弐瓶ワールドに魅了されている読者にとっては「やったね絶好調!」と思わずにはいられないだろうが、もし初めて弐瓶作品に触れる人も「なんだこれ? ひとつもわからん!」と諦めてしまう必要はない。おそらく、ほとんどの読者も「なるほど、なるほどー(←よくわかってない)」という状態である。
しかし、それでも読み進めずにはいられないのは、巧みなキーワードの配置と、あまりにも魅力的に描かれた舞台背景によって「この世界を覗いてみたい」という好奇心が刺激されまくるからであろう。
今作でいえば、舞台となる巨大人工天体・アポシズムそのものの設定や、またしても過酷な環境にさらされている人類の歴史などを、きわめて断片的な情報をもとに手探りで読み進めるような感覚こそが弐瓶作品に触れる愉悦だ。なので、「なんだかよくわからない」のは、「なんだか気になる」とさえ思っていれば大丈夫。大丈夫です。

この退廃的で絶望的な世界観こそが弐瓶作品。 「人形病」に関してはじつは読み切り版でそれなりに説明されているが、あえて漠然とした理解で読み進めてみるのもいいかも?

この退廃的で絶望的な世界観こそが弐瓶作品。
「人形病」に関してはじつは読み切り版でそれなりに説明されているが、あえて漠然とした理解で読み進めてみるのもいいかも?


それでいて、本作はいわゆる「置いてけぼり」にされる感覚は、ある程度マンガを読み慣れてさえいれば、訓練された弐瓶ファンでなくとも少ないだろう(たぶん)。
ひとつには、明日の命がまったく保証されない状況においても、それが「平常運転」であるゆえに生まれる、ちょっとした会話や仕草の絶妙な日常感覚。その描写だけでも読者を未知の世界へとすんなり誘うのに十分だが、本作が決定的に読みやすく感じられるのは「あえてベタ」な要素が積極的に取りこまれているからなのかもしれない。
本作のヒロインであるタイターニアの登場は、いってみれば「親方! 空から女の子が!」のパターンであるし、主人公のエスローが追いつめられた末に「コード」を使って「正規人形」に転身するのも、いわゆる変身ヒーローもので幾度となく見てきた光景だ。
しかし、それが退廃と絶望、そして鉄と錆と無数のチューブと魅惑的なガジェットでヒタヒタに満たされた「弐瓶ワールド」で展開すると、いい意味でどこか「歪(いびつ)」なものへと変質していくのがたまらない。

ある使命によって飛来するヒロイン・タイターニア。 素直に「かわいい!」と思える造形の少女が空から落ちてくる、定番の展開と弐瓶ワールドの邂逅!

ある使命によって飛来するヒロイン・タイターニア。
素直に「かわいい!」と思える造形の少女が空から落ちてくる、定番の展開と弐瓶ワールドの邂逅!


単行本情報

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