人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、阿部共実先生!
“私は月曜日が嫌いだ 月野透と会う約束をしてしまったから”――。
中学生になったばかりの少年少女が、月曜日の夜に学校で会う約束をし、交流する姿が描かれる『月曜日の友達』。印象的なセリフまわし、美しくもはかないシーンなど、思春期の子どもたちの繊細な心の機微を丁寧に描く本作は、第1巻からマンガファンのあいだでも話題となりました!
本作を手がけた阿部共実先生といえば、『ちーちゃんはちょっと足りない』が『このマンガがすごい!2015』オンナ編第1位にランクインしましたが、それから3年、青年誌で連載された本作は、マンガファンからの注目を集め、『このマンガがすごい!2018』にランクインしました。
今回、本作の第2巻が2月23日(金)に発売。それを記念して、阿部共実先生にインタビューをさせていただきました!
前作とはまたひと味違う“色”を見せる『月曜日の友達』。阿部先生が抱く本作への思いや、さらに阿部先生の“血”といわしめるほど影響を受けた作品、セリフや文字表現にこだわった点など、制作裏話をいろいろとうかがいました。
思春期特有の、不安定で繊細な心を描く
――『月曜日の友達』が「このマンガがすごい!2018」オトコ編第4位に選ばれました。
阿部 ありがとうございます。『ちーちゃんはちょっと足りない』(「このマンガがすごい!2015」オンナ編1位)と同じように、当初は『月曜日の友達』も単巻予定だったので、どういう方法で「『ちーちゃんはちょっと足りない』以上におもしろいと思ってもらえる作品をつくるか」って意識はありました。
――『月曜日の友達』は全2巻ですが、もともとは単巻の予定だったんですか?
阿部 そうですね。ネームを先行して描きためてから連載を始めさせてもらったので、最初は『ちーちゃんはちょっと足りない』を意識してネームを切っていました。ですが、書きたいことが増えてページが膨れあがってしまって、2冊に分けることになりました。
――連載開始までの経緯をお教えいただけますか?
阿部 「週刊少年チャンピオン」(秋田書店)で『空が灰色だから』(2011~2013年)を連載しているときに、「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)の担当さんから声をかけてもらいました。その後、読み切り『ボクの憂鬱』の掲載を経て、それ以降もよく連絡をくれていたのですが、あるときに「全1巻でいいから連載をやりませんか」といわれました。「全1巻ならすぐ終わるしいいか」と思って軽い気持ちでOKしたんですけど、それがもう4~5年前のことですから、かなりお待たせしてしまいましたね。
――なるほど。連載前に最終回までのネームが完成していたんですか?
阿部 ネームは完成していました。あとは作画のみだったんですけど、結果的には休みをもらいながらの隔週連載になりました。「少年チャンピオン」で連載していたこともあって、週刊連載には強い憧れを持っていたんですけど。それと、「スピリッツ」には思い入れもあったんです。
――といいますと?
阿部 子どもの頃、家にあるマンガは「スピリッツ」の単行本も多かったんです。大きくなってから「スピリッツ」を読むようになって、青年誌のなかでは「マンガらしいマンガが多いな」って印象でした。
――具体的にどんなイメージでしょう?
阿部 松本大洋先生や花沢健吾先生は「スピリッツ!」ってイメージですね。ほかにも好きな作家さんは多いです。楳図かずお先生の『わたしは真悟』も「スピリッツ」ですよね。
――『わたしは真悟』、お好きなんですか?
阿部 小学生くらいの年齢の男女ってことなど、潜在的に今作にも影響があるような気がします。
――『月曜日の友達』は、どういったところに着想を得て構想した作品なのでしょうか?
阿部
描いてみたい大小のテーマを常にストックしていて、それを混ぜていった感じでしょうか。『ちーちゃんはちょっと足りない』の時も、そうだったと思います。
――本作の場合は、どのように構想していったんですか?
阿部
最初は「男の子同士のいじめっ子/いじめられっ子」みたいなことを考えていました。だからまず月野みたいな吹聴するキャラがいて、それをいじめるヤツがいて。主人公の水谷は3番目くらいにできたキャラですね。それまで自分は「男の子同士」や「女の子同士」の話ばかり好んで描いていたので、たまには素直に「ガール・ミーツ・ボーイ」的なものも描くか、みたいに思いました。
――主人公の年齢(学年)を中学1年生に設定した理由をお聞かせください。
阿部
テーマどおりですね。思春期を描きたかった。特に中学1年生は、環境的にいちばん不安になる時期だと思います。進学によって心細かったり、小学校までの友だちと疎遠になったり、中学校での初めての友だちができたりと、このあたりはだれにとっても強い思い出だと思います。『死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々』(秋田書店)でも中1をよく描いていたのですが、まだまだ中学生を描きたいです。
――「思春期」がテーマなんですね。 阿部
あとは、その前から大友克洋先生の『童夢』のようなものを描きたいと思っていました。自分の作風が日常的なテーマやモチーフばかりで固まってきてしまっていたので少し変化が欲しくて。『童夢』は日常をSFにはめこんでいるので。
――そのあたりは第2集の内容にも関わってきますね。個人的には、第1集と第2集で作品の印象がかなり変わりました。 阿部
第1集があそこで切れると、どんなマンガかよくわからない印象を持たれるのではないか、という不安はありました。ストーリーがあまりなくて、ほぼ自分の感性だけが詰めこまれているようで、これは「どうなのかな?」と。それでも第1集が発売されたあと、好意的な感想もいただいたので少し安心しました。
――オトコ編第4位という結果も、第1集しか刊行されていない時点でのものですしね。 阿部
でも、やはり第2集からが本番という感じなので、ぜひ第2集も読んでいただきたいです。
――先ほどのお話からは、全体の構成はスンナリと決まったように感じました。 阿部
プロット自体はすぐできました。ただ、完成後に少し気になった点が出てきて。
――どういった点でしょうか? 阿部
この作品は⻘年誌に掲載されるのに、「⼥の⼦(=主⼈公・⽔⾕)視点で不思議な男の⼦ (⽉野)を⽬で追う」という構造になっているな、と。⼥の⼦視点は、少⼥マンガではセ オリーだと思います。ですが青年誌や少年誌の場合は、「男の⼦視点で、不思議な⼥の⼦に出会ってひっか き回される」みたいなのが多いイメージで。なので、今作は掲載が「スピリッツ」なので、参考の為に「青年誌で、⼥の⼦が男の⼦を追うストー リーの作品」は何があったか、いろいろ思いだしてました。
その時に青年誌とは関係ないアニメ映画ですが『⽿をすませば』を思いだしました。
――ジブリ作品の。 阿部
中学生くらいの時に『耳をすませば』という作品がすごく好きというか、目を離すことができなくて、ずっとビデオを流していました。そういえば自分は自転車2人乗りが大好きなんですけど。
――『月曜日の友達』第4話(第1集収録)にも、すごく印象的な自転車2人乗りのシーンがありますね。 阿部
それは、よくよく考えたら大もとは『耳をすませば』の影響じゃないか、と。久しぶりに観直したときに「わあっ」って思いました。
――『耳をすませば』の影響も大きい? 阿部
意識はしてませんでしたが、今作はプロットの段階で「中学生がテーマなので、“将来の夢”というテーマも絶対に組みこもう」と思っていたんです。『耳をすませば』は、中学生の主人公たちが将来の夢に向かって希望と不安を持つ作品なので、このあたりも大もとは『耳をすませば』の影響じゃないかと思います。
――先ほど「好きというか、目を離すことができなくて」とおっしゃったのが、すごく印象的です。 阿部
自分が中学生の時には、「漫画家になる」という夢を持っていて、希望と不安で大きく揺れていました。ちょうどそんな時期に『耳をすませば』を初めて観て、すごく感情移入したのをおぼえています。恋愛アニメとしてのイメージも強いとは思いますが、子どもの頃の自分は「夢に向かう少年少女の映画」として強く心惹かれていたのを思い出しました。
――では本作に影響を及ぼした作品は『童夢』と『耳をすませば』である、と。 阿部
意識せずとも子ども時分から残っているので、これは影響というよりは、もはや血だと思います。自分を形成している血だ、と。こういう作品を見て、「自分もこういうものを描きたい」と純粋に漫画家を目指すきっかけになっていく初期衝動というか、親みたいなものというか。
――漫画家としての阿部先生の、根幹にあるような作品といえそうですね。 阿部
影響は、深い意味もなければ、今まで自分はできるだけ作品に出さないように意識していました。今もそういう部分はあります。子どもの頃に衝撃を受けた影響が、思わず作品に出てしまった場合、修正すべきかと思うことも少なくなかったのですが、今作では「こんなに染みついた初期衝動のようなものを描かないのは、むしろ嘘をついていて不誠実ではないか」とも思うようになりました。それこそ深い意味もなく影響を消す必要はないな、という気持ちで。
――『月曜日の友達』の構想過程にお話を戻します。プロットを書きあげて、それからネームを描きだめしていったんですよね? 阿部
ですが、ドラマ性がなく、強い展開や引きもないので、絵やセリフや具体的な展開、構成演出でいかに盛りあげていくか、ってところで苦労し、ネームを完成させるまでは1年くらいかかりました。
――1年! 阿部
その1年は締め切りもないので、思い立ったら水辺や森林など自然のあるようなところまで電車とかで出かけて、晴れだったりくもりだったり雨だったり、朝だったり夕方だったり夜だったり、それに四季もありまして、家族づれや色んな人もいて、カメラでパシャパシャしたり、この美しい情景を、絵や言葉でならどうたとえられるだろうとか考えたり、それが今作の部分部分のアイデアになったり。表現は現実の模倣だなと思いました。好きな時に作品をつくって、好きな時に陽をあびてじっくり創作できて、それは楽しかったです。漫画家としてかけがえのない経験だと思います。
――時間をかけて、じっくりと練りあげた作品だったんですね。 阿部
先ほど「ドラマ性がなく、強い展開や引きもない」といいましたが、『耳をすませば』は、フィクションとしては衝撃的な展開がないのにも関わらず、2時間ずっとおもしろいんですよ。ずっと日常的な描写が続くのに、感情が大きく揺さぶられます。没入します。すごいです。だから自分は「ドラマ性がなく、強い展開や引きもない」なんて悩んでましたが、それは甘えだなって思わされました。子どもの頃は好きなシチュエーションに影響を受けて、漫画家になってからあらためて観ると、新しい発見もたくさんあって、技術的な部分での影響や勉強があって、参考にさせてもらった部分が多くあります。
『童夢』や『耳をすませば』に影響を受けて……1年かかったネーム制作