人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、大今良時先生!
深いテーマ性と密度の濃いストーリで大反響を呼び、アニメ化も発表された『聲の形』。読者の心をゆさぶる作品世界やキャラクターはどのようにして誕生するのか? 次回作の予定は?
読めばもう一度『聲の形』を読み返したくなるインタビュー後編、スタートです!
前編はコチラ!
本誌『このマンガがすごい!2015』でも大今先生のインタビューを8P掲載しています!
『聲の形』における テーマの入れ子構造
――読み切り版から連載版になると物語が将也視点になり、「将也が知りえないこと」を語らなくなりました。これは大きな変更点ですよね。
大今 同じことはやりたくないので変えました。読み切りではやれないことを、連載ではやろう、と。
――はじめは将也と、それに結絃の視点ですか? それで物語が進んでいきますよね。将也視点では、将也の心情にあわせて、ほかの登場人物に「×」マークが付いたり剥がれたりします。
大今 これ、下書きではちゃんと顔描いてるんですよねぇ。
――「×」マークも手描きですか?
大今 はい。
――CGで元絵の上に貼り付けているワケじゃなく?
大今 ひとつずつ手描きです。
――将也視点中心で進んだ物語が、5巻ラストの展開を経て、6巻から一気に変わります。
大今 そうですね、 最初は将也の視点で、6巻からみんなの目線に変わります。
――その構成は、連載前から計画していたことですか?
大今 大雑把なところは最後まで決めておいて、そこから逆算して「ここにアレ入れて、ここでコレやって」と。あとは毎巻、毎週の「引き」です。読者に読んでもらうためにも「引き」は大事にしています。でも、まだまだ全然できていません。
担当 先生はそうおっしゃいますが、連載開始前の構想に、ほぼ近いかたちになりましたよ。たとえば2巻ですと、最初のモノローグ(第6話「どうして」)で「石田将也」「オレはこいつが嫌いだ」とありますよね。はじめて読む場合、これは石田の内省のように感じます。
――たしかに。
担当 しかし、2巻を最後まで読むと、ラストに同じモノローグがあり(第14話「西宮結絃」)、それが結絃のモノローグだとわかります。
――コミックスで読むからこそ気づく仕掛けですよね。
担当 これは第6話を描く時点で、先の展開や、コミックスになった時のことまで考えていないとできないことです。
――物語は続いていきますが、コミックス1冊ごとにストーリーの区切りができるように構成されていますよね?
担当 2巻では「将也と結絃」、3巻最後で「硝子の重大シーン」、4巻で「硝子と結絃の出生の話」、5巻での「あの展開」……というのは、じつは連載開始前から、先生から提示されていました。そして、ほぼそのとおりに実現したのは驚異的です。キャラクターを、丁寧に構築しているからこそできるのでしょう。
――そういうところに気づいている読者は、どんどん深読みしていきますよね。
大今 こちらが意図していない点まで深読みされることもあります(笑)。
――具体的にどこが……と聞くと、読者の解釈の幅を狭める可能性があるので控えますが。
大今 だから読者の反応を見て驚くこともあります、「そういう見方もあるのか!」と。
――本当ですか? 先生、シラ切ってませんか?(笑)
大今 切ってません(笑)。大筋以外には、そんなに事前にミッチリ決めているワケじゃないですよ。ネームに描き起こした時に「やっぱ入らないな」ってなったら次のタイミングに回そう、とか。
――マンガは、作者が描いたものしか誌面に現れませんよね。偶然何かが映り込むことがない。だから読者はみんな作者の意図を深読みするんですよ。それにこの作品は、毎週のテーマ、毎巻のテーマ、話全体のテーマ……と、テーマの入れ子構造がすごいですから。とても週刊連載だとは思えない。
大今 いえ。もっともっときめ細かくやらないと。