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『うしろのまなざし』第1巻 艶々 【日刊マンガガイド】

2015/04/06


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『うしろのまなざし』第1巻
艶々 少年画報社 \535+税
(2015年3月9日発売)


たとえば、『やるっきゃ騎士(ナイト)』のみやすのんきや、『Oh!透明人間』の中西康弘、『いけない!ルナ先生』の上村順子。どの世代にも、心だけじゃなく、身体もうずかせる記号や象徴になっている漫画家がいるものだ。
今の青年マンガで言えば、艶々(つやつや)は間違いなくそうした描き手のひとり。作品自体を手に取ったことはなくても、“熟れた”という言葉がぴったりな、豊満な女性の絵に見覚えがある人もいるかもしれない。
最新作『うしろのまなざし』は、そんな作者の醍醐味が十二分に堪能できる一作だ。

舞台は、“おかあさん”と呼ばれる大家兼管理人の女性がきり盛りしている下宿。
おかあさんと呼ばれているのは母親のように口やかましいからなのだが、面倒見がよく美人な彼女は、住人たちに安らぎを与える存在となっている。

しかしそんな彼女が、あるときから興奮を与える存在となり変わる。
それを導くのは、押し入れの覗き穴だ。安い造りだからなのか、どの部屋の押し入れにもスキマがあって、くしくもそのスキマの奥に見えるのはおかあさんの部屋。
各部屋の下宿人たちは、前の住人が書いたと思われる壁の落書きに促され、覗き穴に──そして、その先にあるのは……。

おかあさんの裸体と痴態、なによりそれを覗くという行為に魅せられる住人たち。
タイトルの『うしろ~』は、うしろ=背後から覗く行為をさしているが、同時にうしろ=後ろめたさでもあるはずだ。
後ろめたいからこそ、淫靡で卑猥。本作の魅力も、艶々の魅力もそこにある。
『たとえば母が』は作者の代表作となったシリーズだが、同作にしても秘密を抱える母と、そんな母に欲情してしまう息子の後ろめたさがなによりセクシャルな作品だ。

下宿人のひとりである品行方正なサラリーマンは、盗撮行為で捕まった部下を諭す場面がある。そこで「ケモノじゃないんだから」というサラリーマンに、部下はこう返すのだ。
「…動物(ケモノ)じゃないから… だからじゃないんですか?… だから余計…隠されたものの その中身を知ろうとするのって…」
鋭いセリフで、現代的なエロスのあり方も、作者の作品性のあり方にも当てはまる。

作品は連作のオムニバス形式で、各部屋の住人が主人公となっていくが、話が進むに連れてさまざまな秘密が見えてくる構成となっている。
なぜ、図ったように各部屋に覗き穴があるのか。そこでタイトルのさらなる秘密もまた見えてくる。
深淵を覗く心理サスペンスとしても、読ませる1作。

人は知りたがりで、覗きたがりな生き物。艶々は、心と身体だけじゃなく、頭もうずかせて刺激する作家だ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

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