『恐竜大紀行』完全版
岸 大武郎 ジャイブ
1923年4月17日。アメリカ人の動物学者、ロイ・チャップマン・アンドリュースがゴビ砂漠へ向けて北京を出発した。
2カ月後の6月13日。アンドリュースは恐竜の卵の化石を発見。
これは史上初の快挙だった(当初は角竜類のプロトケラトプスのものだと考えられていたが、1995年にオヴィラプトルのものであると同定)。
そしてアンドリュースはその後の5年間で恐竜の卵の化石を25個も発見。
本格的な恐竜研究の始まりを記念して、4月17日は恐竜の日に制定されている。
恐竜はいつの時代も老若男女問わずに人気があるコンテンツであり、恐竜展や恐竜関連のドキュメンタリーの需要は非常に高い。
恐竜モノの映画も『ジュラシック・パーク』を筆頭に多々作られているが、マンガとなるとあまり数が多くないのが現状だ。
デフォルメしたキャラクターとして恐竜が登場することはあっても、本格的に恐竜時代を描くとなると資料を読みこみ、当時の地球の状況や各恐竜の特徴を正確に把握し……。
作業が膨大になることが目に見えているからだ。
ところが、そんな恐竜モノに果敢に挑んだひとりの漫画家がいた。岸大武郎である。
「週刊少年ジャンプ」1988年51号から突如始まった『恐竜大紀行』にドギモを抜かれたアラフォー世代も多いだろう。
なにせこのマンガ、人間がひとりも出てこないのだ。恐竜時代(中生代)を描いているのだから当然ではあるが、『ドラゴンボール』を筆頭に『シティーハンター』『聖闘士星矢』『ジョジョの奇妙な冒険』という超強力打線を組んでいたジャンプ黄金期に、このテーマで斬りこんだ事実がすごい。
人格を持った恐竜たちがおりなす生命の輝きが圧倒的なスケールで描かれており、いま読み直してもじつに感動的。
残念ながら短命(1989年12号で終了)であり、コミックスも1巻だけだったが、鳥山明が大絶賛するなど一部で熱狂的なファンを獲得、2005年にはジャイブより完全版が刊行されている。
当時のジャンプを知らない若い世代にも、ぜひとも読んでほしい恐竜ロマンだ。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。地元・立川を舞台にしたゲッツ板谷原作の映画『ズタボロ』(橋本一監督/5月9日公開)の劇場用プログラムに参加しています。
「ドキュメント毎日くん」