『ランド』第1巻
山下和美 講談社 \900+税
(2015年4月23日発売)
人間とはいったい何なのか。
『天才柳沢教授の生活』、『不思議な少年』を通じて、深遠な問いに果敢に挑んできた山下和美。
その山下和美の新作が本書『ランド』。
今回のテーマは、言ってみれば“社会”だろうか。
しきたり、タブー、風習……。目には見えないが社会のなかに歴然とある一線を、奔放で行動力ある少女・杏(あん)が飛び越えてゆく。
物語は、神職らしき鹿頭の者と、2人の赤子を抱いた男・捨吉が向かい合うシーンから始まる。
捨吉の妻が命と引き替えに産んだのは、不吉と忌み嫌われる双子。捨吉は凶相を持った双子の片割れを、天主様の怒りを鎮め、雨の恵みを得るため、山へ置き去りにするほかなかった。
それから8年。父・捨吉の手元に残った娘・杏は小さな村ですくすくと育つ。その村では、50になるとだれもが死を迎え、「お山の向こうへ行く」というしきたりがあった。
村の子供・平太の父親も50となり、杏は葬列に加わって初めて町に出る……。
“村”という小さくて狭い視野は、杏が行動を起こすたびにぐいっ、ぐいっと広がっていく。
村の外には江戸の宿場を思わせるにぎやかな町があり、その向こうには生者が越えてはならないお山が連なる。
この先には何があるのか。除々に見え始める社会と世界の全体像。
そして、1巻の最後の最後に現れた見開きの衝撃……! これには一気に鳥肌が立った。
続きがどうなって、どこへ着地するのか、もう想像もつかない。
このスケール感は驚天動地だ。
<文・卯月鮎>
書評家・ゲームコラムニスト。週刊誌や専門誌で書評、ゲーム紹介記事を手掛ける。現在は「S-Fマガジン」でファンタジー評を連載中。
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