『死ぬかと思ったH 無修正』
田中圭一 アスペクト \1,080+税
(2015年6月26日発売)
一般の方から寄せられた、肉体的もしくは精神的に「死ぬかと思った」体験談をもとにした、シリーズ累計250マン……万部突破の大ヒット実話系ギャグコミックシリーズも、これにてついに打ち止め。
掲載されているネタの大半は、自分の恥ずかしい行動を不意打ちで目撃される、逆に両親、友だち、上司や学校の先生の「秘めごと」を思わぬかたちで見てしまう……といった、実際に経験したことはなくとも、一歩間違えれば自分もしていたかもしれないようなもの。
しかしなかには、「トンビに飼い犬をさらわれる」「転校先にいた自分とうりふたつの少年がじつは……」といった、荒唐無稽なものもチラホラと混ざり、セレクトされたエピソードのバランスがじつによい。
そしてなんといっても、パロディ。
手塚治虫の絵柄を模写し、大胆に下ネタを展開した『神罰』をはじめ、有名漫画家の独特なタッチを再現して破天荒なネタを繰り広げるパロディ作品の数々で知られる田中圭一だが、その技術は今作でも全開。
これまでの「死ぬかと思ったH」シリーズに比べて絵柄のバリエーションが増え、以前から得意とした巨匠の絵柄も、ますます巧みになっている。爆笑しつつも「いいのかこれ……?」と震えることもしばしば。
ボーナストラックとして収録された、著者が某おもちゃ会社に勤務していた時代のエピソードをもとにした「田中K一」主役の作品も、業界の裏側がチラリと垣間見えてお得感アリ。
これまでの作品同様、多くの人に手にとってもらいたい。
ですから、お願いなのでエラい人たち、訴えないであげてください!
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei