日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ダンジョン飯』
『ダンジョン飯』第2巻
九井諒子 KADOKAWA ¥620+税
(2015年8月12日発売)
魔王が死んだあと魔王城はどうなったのか、世界を救った勇者はその後の人生をどうすごしたのか、背中に翼を持つものが現代日本にいたとしたら、空を飛ぶことをどのように感じるのか。
九井諒子は商業デビュー作である『竜の学校は山の上』以来、ファンタジー、ことRPGというモチーフに対して、メタフィクショナルな操作(と妙な生活感)を加えることで、おもしろおかしく、しかしたしかな余韻を残す寓話をつむいできた。
そんな九井が、ここ数年で空前のブームを巻き起こしている「グルメマンガ」に挑んだらどうなるのか。
大サソリと歩き茸にスライムを加えて水炊きにしたと思えば、ダンジョンの火罠を利用しバジリスクの卵を使ったマンドレイクのかき揚げを作る。
このように、ダンジョンに住まう空想上のモンスターたちをディティールたっぷりに調理する『ダンジョン飯』は、いかにも九井諒子らしいセンスに満ちたRPG風・メタ・グルメマンガとして、ほかとは一味ちがう一品へと料理され、スマッシュヒットを飛ばした。
その勢いは、この第2巻でも衰えることを知らない。
むしろ、アクロバティックな一発ネタの集積で見せるのではなく、ゴーレムを動く畑として解釈しなおすなど(この回ではむしろ、丸ごとキャベツ煮とかぶのサラダという、現実世界でも再現可能な料理が出てきた点に逆に驚かされるだろう)、ダンジョンと飯を結びつけるパターンのバリエーションを増しつつ、オークが語るダンジョン内の異変など、「レッドドラゴンに食われた妹を救うために旅」という物語性を強めている(技巧派のメタフィクション作家としての九井諒子ではない、物語作家としての九井諒子へのフォーカスは、『Merca β01』における岩下朋世×泉信行×三輪健太朗×筆者による共同討議で展開したためここでは繰り返さない)。
妹が消化され尽くすまでのタイムリミットは1カ月間。正確には測れないが、第2巻のラストまでにおおよそ1週間程度が経過していると思われる。
そこであらためて読みなおすなかで、旅程のおよそ4分の1を消化しただろう現在までの、料理と関連情報のリストを作成したので、おまけ資料として掲載したい(ざっくりとしたカウントなので、参照は自己責任で)。
■第1巻
●1日目
第1話:【迷宮1階】【1日目昼食】大サソリと歩き茸の水炊き
第2話:【1日目夕食】人喰い植物のタルト(※サソリ汁の残りを再利用)
●2日目
第3話:【迷宮地下2階】【2日目朝食】人喰い植物の実(前日の残り)【2日目昼食】ローストバジリスク
第4話:【2日目夕食】マンドレイクとバジリスクのオムレツ(※昼に採ったバジリスクの卵を利用)
●?日目
第5話:マンドレイクのかき揚げと大蝙蝠天(※火罠の火力とオリーブオイルを利用。マンドレイクとそれを収穫するために使った大蝙蝠と以前のバジリスクの卵を利用)
第6話:動く鎧・前編/食事なし
第7話:動く鎧のドワーフ風炒め、動く鎧の蒸し焼き、動く鎧のスープ(※バジリスクの卵を利用)
■第2巻
●?日目
第8話:【迷宮地下3階】丸ごとキャベツ煮、かぶのサラダ(※ともにゴーレム畑から収穫した野菜を利用)
第9話:パン(※酒場から奪ったパン種と以前のオリーブオイルを利用)、ピリ辛鶏と丸ごとキャベツ煮(※ゴーレム畑の野菜を利用)、クレープ
●?日目
第10話:宝虫の巣のジャム(※前回のパンにつける)、コイン虫のせんべい、真珠ムカデの串焼き
第11話:特製♪無国籍風聖水(※前回の宝虫のジャムを利用)→厄よけ祈願! 除霊ソルベ(※聖水で霊を物理攻撃した結果生成)
第12話:絵に描いた宮廷料理(※内訳:かぼちゃのスープ、枝豆と白身魚のソテー、黄金小麦のパン、鴨肉のロースト、黄金牛のチーズ)
●?日目
第13話:茹でミミック
第14話:【迷宮地下4階】水棲馬油石鹸(※オリーブオイルを利用)
※「?日目」はほぼ確実に日付が切り替わっている箇所に使用。実際の日数はもう少し多いと思われる。
※前日までの残りものを活用したレシピが多いところも心憎い仕掛けだ。
<文・高瀬司>
批評ZINE『Merca』(アニメルカ×マンガルカ×ジャズメルカ)主宰。アニメ/マンガ論を『ユリイカ』などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
TwitterID:@ill_critique
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