日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは『明智警部の事件簿』
『明智警部の事件簿』第3巻
天樹征丸、さとうふみや(作) 佐藤友生(画) 講談社 ¥429+税
(2015年9月17日発売)
『金田一少年の事件簿』に登場するエリート警視・明智健悟。
東京大学法学部の在学中に司法試験に合格。キャリア組として警視庁に入庁後、ロサンゼルス市警察で研修――という華麗なる経歴を誇るが、作中では常に金田一一の後塵を拝してしまう。それは一の推理力がスバ抜けているからで、明智が無能なわけではない。
人気ゆえか『明智少年の華麗なる事件簿』、『明智警視の優雅なる事件簿』というスピンオフ作品が発表されてきたが、これまでになかった「警部」時代を描いたのが、本書『明智警部の事件簿』である。
また、これまでのスピンオフ作品2作は、いずれも『金田一少年の事件簿』の作画担当のさとうふみやが手がけてきたが、本作では佐藤友生が作画を担当している。
明智健悟は、ロス市警から帰国後、26歳で警視庁の捜査一課に警部として配属される。
その明智とコンビを組むのは小林(!)竜太郎。高校卒業後、警察学校に入学(成績は普通)、その後配属された交番での勤務態度がすばらしく捜査一課に配属となった、正義感あふれる25歳の新人刑事である。
冷静なエリートと熱血漢の叩き上げという対照的なコンビが事件に挑んでいく――というのが、本作の基本的な設定である。
そして明智・小林コンビの動きは、明智を敬遠していた捜査一課の面々――ベテラン刑事の高木重史、女性刑事の南条あかね――も巻きこんでゆき、“チーム明智”めいたものができあがってくる。
明智が、受けいれられていく様子を象徴的に示しているのが、コミックスの表紙である。
まず表紙でいえば、1巻では明智がひとりで佇んでいるが、2巻では明智の横に小林竜太郎が並んで立っている。
そして3巻では、明智の横にはスコットランドヤード帰りのエリート刑事・黄地公也がおり「竜太郎、相棒クビ?」と読者に気をもませるのである(裏表紙にも、同様の趣向があるので1~3巻を見比べていってほしい)。
ところで、第3巻の巻末には、ボーナストラックとして、「小説 明智警部の風雅なる珈琲時間(コーヒータイム)」が収録されているのだが、ここでは明智のキザな登場シーンを「秋の風が吹き込んで、レジ横に飾られていたコスモスの花びらが、桜のように白く舞った」と描いている。
マンガだと、特に説明もなく、明智の周りに花びらを散らしておいても許されるが、小説はいちいち説明が必要になる点がたいへんだな――と、あらためてマンガと小説の表現方法の違いを実感させられた次第である。
ちなみに、佐藤友生には『探偵犬シャードック』という作品があった。
名探偵シャーロック・ホームズが犬になって現代に甦り、高校生の輪島尊(わじま・たける)とともに事件に挑む――というもので、尊が念願の刑事になり、宗方研人というキャリアのライバルも登場して、さあこれからというところで「諸事情により一旦終了」となってしまった。
この作品の原作者が安童夕馬(=天樹征丸)だったので、2人は『シャードック』で不完全燃焼になった部分を『明智警部の事件簿』でリベンジしているのかな、と想像をめぐらせたりもしてしまうのである。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。