日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『酩酊! 怪獣酒場』
『酩酊! 怪獣酒場』第1巻
青木U平 小学館クリエイティブ ¥520+税
(2015年10月5日発売)
飲み屋街にひっそりとのれんをあげる居酒屋「怪獣酒場」
店長はケムール人で、店員はダダ、ゼットン、ザラブ星人と新人バイト・うるま寅次郎(人間)。「種族のるつぼ」ともいえる「怪獣酒場」を訪れる怪獣たちのエピソードや、仕事を終えたスタッフ同士の会話などから生まれる、ゆるやかな笑いを描いたのが本作『酩酊! 怪獣酒場』である。
至高の料理を求めるナックル星人、仕事で悩むサラリーマンのレッドキング、流しのエレキングと店にはいろんな怪獣・星人がやってくる。
もちろん、人間と怪獣が共存しているこの世界では、定年を間近に控えた古代怪獣・ゴモラと謎の美女との恋模様なんてエピソードもある。
また、人間である寅次郎とケムール店長やダダ、ゼットンたちとはツボが違っており、そうしたギャップも笑える。
著者の青木U平には、筆者が好きな『フリンジマン』というマンガがある。
友人3人組が「愛人」をつくるべく、すでに愛人を持つ「教授」(プロフェッサー)に教えを請いながら〈愛人同盟〉を組んで、試行錯誤するというものだ。
『フリンジマン』では、登場人物たちは、何かというと自分の趣味(プロ野球や映画)にひきつけて話をし、そうした会話がおもしろさを醸し出していた。
そういった笑いのつくり方は、本書にも通じるものがあり、青木U平の得意分野といえそうだ。
ところで、「怪獣酒場」は実在する。
川崎市のとあるビルの地下1階で「帰ってきた怪獣酒場」が、営業しているのだ。
円谷プロ公認のエンタメ系居酒屋で、店内の装飾・グッズなどはファンの心をくすぐる。
料理や飲み物も怪獣をモチーフにしたものが提供される。「グドンのおススメ! ツインテールフライ」や「出現! 宇宙竜ナース」など、どんな料理かとワクワクさせられる。そうした料理もじつにおいしくて、こういった店にありがちな「コンセプトはいいけど、料理は残念」ということはない。
箸置きに怪獣がデザインされていたり(しかも、箸置きは持ち帰りOK)、来店ポイントが貯まると店長のバルタン星人(という設定なのだ)の名刺がもらえたり、という特典も心憎い。
利用客は、怪獣好きな「大きなお友だち」だけかと思いきやさにあらず。家族連れ(の集団)やカップルと幅広い客層に、コアな怪獣ファンが混じっているという感じだ。
なお、大阪は難波にも「元祖怪獣酒場」という系列店がある(店長はカネゴン)。残念ながら、こちらは筆者も未経験。でも、メニューが川崎とは違うようなので、機会があればぜひ行ってみたい。
なにやら「帰ってきた怪獣酒場」に対するぐるなびレポートみたいになってしまったが、じつは本作は、WEBサイト「みんなのごはん Powered by ぐるなび」で連載中なのである。マンガの媒体も広がったものだとWEBに疎い筆者などは驚かされる。
ちなみに、「みんなのごはん」ではパロディ漫画家の田中圭一が『田中圭一のペンと箸 ―漫画家の好物―』という作品を連載している。手塚治虫、ちばてつや、赤塚不二夫……といった名だたる漫画家の二世たちに、親に関するエピソードを食に絡めて語ってもらう、という企画で田中圭一は、例によって、取り上げる巨匠たちの絵柄をうまく再現している。
そして、子どもたちが語る親としての巨匠たちの姿はじつに興味深い。
こちらもぜひご一読を。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。