日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『アオとハル』
『アオとハル』
しおやてるこ 少年画報社 ¥630+税
(2016年3月30日発売)
高校3年進級時、仲よしの友だちとひとりだけクラスが別れてしまったハルオ(通称・ハル)。
すっかり“ぼっち”になってしまい、なかば自嘲気味に受験勉強に打ちこむかと図書館に足を向けたハルは、思わず見とれるほどの美少女・アオに遭遇する。
念願かなって他校の制服を着た彼女と再会したハルは、アオに直球アタックを試みるもあえなく玉砕。
しかし、ハルのほうはすっかり忘れていたのだが、2人は幼い頃に短いながらも印象的な出会いをしていたのである。
一方、話が進むにつれ、アオの暗い表情の理由が少しずつ見えてくる。
アオに対してまともな親とは思えない態度をとる母、そしてアオを私物化している兄の存在……。
心を閉ざさなければ壊れてしまうような生活を強いられているアオにとって、まっすぐに向かってくるハルはいつしか大きなよりどころになっていく。
“家庭の事情”という言葉のもと、“子ども”はどんなひどい現実も受けいれなくてはならないと思いこまされしまいそうになるけれど。
人を好きになることは希望をもたらすのだ、と本作は語りかけてくる。
厳しい現実、環境を選べない高校生の無力感……痛々しいエピソードも多いけれど、2人の新しい出発を描く最終話はすがすがしい読後感である。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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