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『麦の惑星』第1巻 鳥野しの 【日刊マンガガイド】

2016/05/31


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『麦の惑星』


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『麦の惑星』第1巻
鳥野しの 祥伝社 ¥680+税
(2016年5月7日発売)


山の上のパン屋さんが舞台…といえば、映画『しあわせのパン』みたいなホッコリさん食マンガと思ってしまいそうだが、本作はなんとSF!

駅からケーブルカーで山を登った上にある天然酵母のパン屋さん「ほたるベーカリー」には、若き店主・紺太と少年・まみ太が暮らしている。まみ太は、まわりには「父親が違う弟」ということになっているが、じつは彼は宇宙船の事故で遭難した宇宙人だった――。

地球人とは異なり、システム的に生みだされ、育てられたまみ太には「家族」や「さみしい」という概念はなく、たったひとりで見知らぬ星に取り残されてもケロッとしている。
しかし、母親不在のまま幼少期を過ごし、祖父が死んでからは、ひとりで店を切り盛りしてきた紺太は、まみ太のことを放っておけなかった。

印象的なのが、夜中に起きてきたまみ太に紺太が焼きたてのパンをふるまうシーン。
「さみしい時は…あったかくて甘いもん食うといいんだぞ!!」とまみ太を励ます紺太を見ながら、ふと「“さみしい”のは自分のことなんじゃないか…」と気づきながらも、黙ってパンを頬張るまみ太。

「さみしい」という気持ちがいっそなくなれば…とは、だれもが一度は思ったことがあるだろう。
しかし、そんな「さみしさ」ゆえに、紺太は祖父の残した店でパンを焼き続け、まみ太といっしょに暮らすようになったわけで。

「さみしい」と感じられる人間って、やっぱり悪くないかも…と考えさせられる。

彼らを見守る周囲の人々も、つかず離れずの距離感がなんとも心地よく、ずっとこのまま彼らの日常を見守っていたくなるのだが、どうやらそうも行かなくなりそうな気配もあって――。

ファンタジックな味わいとともに、体のなかがじんわりとあたたかなもので満たされてゆく作品だ。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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