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『臆病の穴』第2巻 史群アル仙【日刊マンガガイド】

2016/05/31


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『臆病の穴』


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『臆病の穴』第2巻
史群アル仙 秋田書店 ¥600+税
(2016年5月6日発売)


2014年、23歳の時ツイッターに投稿した1ページマンガ「今日の漫画」がまたたく間に拡散され、一晩で何万人ものフォロワーが増えるなど、話題を集めた史群アル仙の最新単行本。

幼少期より昭和のマンガに親しみ、「昭和漫画の画風を現代に」という意思のもと漫画家になったという経歴とおり、その丸みのある可愛らしい絵と、「愛」や「自我」といったシリアスなテーマに深く斬りこんだヒリヒリと痛々しくもせつない物語世界は、ジョージ秋山、永島慎二、つげ義春、松本零士、手塚治虫、吾妻ひでお…といった70年代の漫画家たちを彷彿させる。

(パロディ?と見まがうようなタッチに、つい田中圭一先生がマジメなテーマにマジメに取り組んでいたなら、こうなってたのかも……と妄想したり。)

2014年に単行本化された『今日の漫画』の際には、感情をペンで刻みつけたような生々しいメッセージ性がきわだっていた感もあったが、この短編シリーズは、登場人物のコンプレックスをそのままシュールな設定へと託したストーリーものが大半を占めており、その絶妙なアイデアと仕掛けに、「うまい!」とうならされずにいられない。

どうしようもない現実や、ままならない人の心をつぶさに見つめ、ときには登場人物にシニカルで容赦ない鉄槌を下しながらも、その作品は一貫してユーモアとあたたかさにあふれ、読み終わったあとには、不思議と希望がわいてくる。

本作は単行本4作目になるが、まだまだ引き出しを隠し持っていそうな人だけに、次作にも期待せずにいられない。

25歳という若さの人が今の時代に、こんな作品を描いていることに、いちマンガファンとして感謝したくなる。

個人的には、うめざわしゅん『パンティストッキングのような空の下』に継ぐ、ここ数年での衝撃であり収穫。気になってた人は、ぜひ。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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