日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『よろこびのうた』
『よろこびのうた』
ウチヤマユージ 講談社 ¥880+税
(2016年7月22日発売)
2014年に「イブニング」にて連載された『月光』で広く注目を集めた、ウチヤマユージの最新作。
田園地帯の火葬場から老夫婦の白骨化した焼死体が発見された。
警察は「介護の末の心中」と結論づけたが、半年後、取材のために訪れたひとりの雑誌記者が事件の闇に踏みこんでしまう――。
限界集落、虐待、認知症、老老介護……。現在の日本が抱えるテーマを盛りこんだ、いかにも暗雲たるサスペンスかと思いきや、淡白でポップな絵柄とよけいな言葉を極力排したミニマルでテンポのいい語り口のギャップも絶妙で、いやおうなしに引きこまれる。
巧みに散りばめられた伏線がイッキにつながり、「驚愕の真実」を導きだしてゆく展開は鮮やか! のひと言。このテの作品はブラックで閉塞感極まるオチに着地しがちだからこそ、リリカルであたたかなエンディングにも拍手を贈りたくなる。
著者はもともと本業のかたわら、コミティアで15年に渡って作品を発表し続けてきた作家。
物語自体はこれといった目新しさはないが、アイデアと構成でここまで特異な世界を生みだしつつ、エンタテイメントしてしっかり楽しませる力量は、なかなかどうして非凡なものがある。
ドラマ化してもおもしろそうな気もするけど、このサイレント映画を見るような世界観は、逆にマンガだからこそハマるのかも。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69