日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『オゲハ』
『オゲハ』 第3巻
oimo KADOKAWA ¥650+税
(2016年10月15日発売)
中学生の少年・木嶋智(きじま・さとし)通称「キジ」。
彼が公園で見つけたのは、下半身が虫、腕が羽根、上半身が人間という生き物。
彼はこれを「おもしれー 持って帰ろ」といいながら、脚をつかんで家に引きずっていった。
羽があっても飛べない。脚が弱くて歩けない。腕がないので何も持てない。
汚いアゲハ蝶だから「オゲハ」。彼はオゲハを、なんとなく飼い始める。
オゲハのデザインがきわだつこの作品、それ以上にキジの行動が読めなくて混乱する。
憐憫の情で飼っているわけじゃない。いじめるために連れてきたわけでもない。
育てる知識がないため、餌も水も与えず殺しかけてしまった。
重いからと置いていこうとしたこともある。洗うために漂白剤をかけようとしたことすらある。
飼うにつれてそこそこの情はわくけど、基本扱いは雑。
連れて帰ってきたわりに、別に虫に興味はない。「おもしろかったから持って帰った」だけだ。
なまじオゲハが人間型(?)をしており、言葉をしゃべるので、飼っているキジの行動は時折残虐に見える。
だが「昆虫を捕まえた中学生」と考ると、それほど突飛でサイコパスな行動をとってはいない。
キジはあまり感情を表に出さないので、何を「おもしれー」と感じているかわからない。
著者はキジの行動や表情を通して、想像以上に人間は入り組んだ感覚を持っていて、第三者からはわかりづらいことを表現している。
「おもしろい」とか、「かわいい」とか、「気持ち悪い」とかで、人の感情はくくれない。
無表情だから何も考えていないわけじゃない。しゃべらないから感性がにぶいわけじゃない。
ちゃんと彼なりの理論で、オゲハを飼っているから、オゲハは彼を慕っている。
キジが何を考えているかは、読者の読み方に託されている。
第3巻が完結巻で、作中では「オゲハとは何なのか」をめぐってものすごく大きな出来事が進行、オゲハにも生死が伴うような事件が続く。
だがキジの行動と視点は、終始淡々とおさえられている。
そこに不気味さを感じるか、幼さを感じるかは人それぞれ。
ぐるぐると描きこまれたオゲハの目は、焦点のはっきりしないキジの目を必死に覗きこみ続けている。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」