『海辺のエトランゼ』 紀伊カンナ
祥伝社 \620+税
(2014年7月25日発売)
沖縄の離島に暮らす駿は、小説家の卵。毎日夕暮れ時に海をぼんやりと眺めている高校生・実央のことが気になっていた。
実央は両親を亡くし、天涯孤独の身となったばかりだったのだが……まるで「この世にひとりきり」のようなその横顔にひかれるまま、彼に声をかける。
駿は、同性愛者であることに後ろめたさを感じている。かつて親の決めた結婚を断るためにカミングアウトせざるをえなくなり、結果、家族にショックを与えたことが彼の心の傷になっていた。
一方の実央は、同性に興味はないものの……「下心があって声をかけた」とはっきり言いつつも、引かれるのを恐れ、そんなそぶりを見せまいとする駿に、好感を抱くのだ。
次第に心をかよわせる2人だが、実央は他の施設に越さなくてはならなくなってしまう。
駿のほおにそっとキスをして、また連絡するという言葉を残し、実央は島を去っていく。
同性を人間的に好きであることと、恋愛の対象として好きになることは、どう違うのだろう。実央がそれを見極めるまでに要した時間は、3年間だった。
小説家として生計を立て始めた駿の前に、3年ぶりに現れた実央。その晴れ晴れとした表情に、読者は本作に引きこまれずにはいられない。
著者の紀伊カンナは、デビュー作がそのまま連載となり、本書が初単行本。
いや、これがデビュー作とはじつに驚きで「いったい今までこの作者はどこにいたんだろう?」と思ったら、別名義でイラストレーターとしても大活躍中。以前はアニメーターをしていたという。
人物のロングショットもクローズアップも効果的。登場人物の心中を雄弁に語るカメラワーク。日ざしと木陰の織りなすコントラスト、静かで物憂げな沖縄の夜。なるほど、前職がアニメーターというのも納得の、目をみはる表現力の高さである。
「onBLUE」(祥伝社)では、続編となる『春風のエトランゼ』の連載もスタート。
駿の故郷である北海道に居を移し、新生活を始めた2人の関係性がどう変わっていくのか楽しみだ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」