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『ひさいめし ~熊本より~』 ウオズミアミ 【日刊マンガガイド】

2017/01/16


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ひさいめし ~熊本より~』


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『ひさいめし ~熊本より~』
ウオズミアミ マッグガーデン ¥824+税
(2016年12月14日発売)


2016年4月14日、熊本県で大地震が起きたことは、まだ記憶に新しいだろう。
著者のウオズミアミ氏は、在住している同県内の橋の上で、夜半に自転車を走らせている最中に被災する。そこから始まる、ごはん事情を中心とする実録ルポマンガだ。
極度の人見知りである同居人女性・でんちゃんと、だっこ嫌いの飼い猫・ヤンちゃんの心配をしながら、自宅アパートへ戻るが……。

同著者の『おいしいかおり』で描かれるちょっと素敵な日常の源と思われる、ワインやスパイスのびんは砕け散っていた。
その直後に、速攻で冷蔵庫のありあわせからつくった豚汁は、体も心もあたためてくれたが、2度目の本震で床にぶちまけられ、無惨な姿になってしまう。飯好きとしては、これだけでも、心がひどく痛む。

知りあいの知りあいや初対面の人でも、食料も情報も当たり前のように分けてくれるし、見ず知らずの人まで、ほんの少しであることをわびながら、なけなしのお湯をわかし、インスタント味噌汁を渡してくれる。
逃げる時に傷を負った人も、水汲みの順番を待ち、淡々と状況を語るのみだ。
いい話が心にしみるが、明日から暮らせなくなる人も少なくないとの現実も浮かび上がる。どんなに優しい気持ちを持っている人にも、災害は容赦なく、ほぼ前ぶれもなく降りかかってくる。その残酷さには立ちすくんでしまう。

限られた材料からつくったりわけあったりする食事シーンはおいしそうだが、普通の飯マンガのように「食べてみたい!」と気軽にいえるものではない。
しかし、そのあたたかさにどれだけ救われるかは、かみしめられる。

詳細な記録を残してくれた作中には、大量の水の運び方や食器を汚さない調理法など、有用な情報も多い。
経験談から知識を得て対応できる力をつけ、自分自身に余裕が出てくれば、食料や情報をまわりりの人とわけあうなどもしやすくなるだろう。

被災時の猫のケアについてもくわしく描かれているので、特に猫飼いならば必携だ。



<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。

単行本情報

  • 『ひさいめし ~熊本より~』 Amazonで購入
  • 『おいしいかおり』 第1巻 Amazonで購入
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