人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。
今回お話をうかがったのは、卯月妙子先生!
20歳で結婚し、一児をもうけるも、夫の会社が倒産。多額の借金返済のためにホステス、ストリップ嬢、AV女優となり、排泄物やミミズを食べるなどの過激な行為でカルト的人気を得るが、夫の自殺を機に幼少の頃から患っていた統合失調症が悪化。激しい自傷行為や殺人衝動に襲われ、入退院を繰り返すようになる。
そんななか、25歳年上のボビーと恋に落ち、激しいケンカをしながらも楽しい日々を過ごすようになるが、ある日、衝動的に歩道橋からダイブ。顔面崩壊&片目を失明することに――。
そんな壮絶すぎる自身の体験を、ユーモラスにあっけらかんと描き、大きな反響を巻き起こした前作『人間仮免中』から4年半。その続編となる『人間仮免中つづき』がついに発売された! 東京から北海道へ移り住み、療養生活を続けながら、彼女はいったいどんな日々を過ごし、どのように本作を描き上げたのか? 運命の人、ボビーとの愛の行方は?
読み手を打ちのめすと同時に、深い笑いと涙と感動を生んだ「奇跡のつづき」について、ご本人の口から赤裸々に語っていただきました!
『人間仮免中』から『つづき』へ……
「オナニー」から「記録」への変化!?
――私自身『人間仮免中』に衝撃を受けたひとりでして。卯月さんの「その後」はずっと気になっていたのですが、まさか続編が読めるとは。まさに感無量なんですが、続編は前作を描かれた当初から想定されていたのでしょうか?
卯月 そうですね。『人間仮免中』が出てすぐに小学館さんから声をかけていただいたので……。
担当 『人間仮免中』の担当編集者の方とご縁があって、「次、どうですか?」と声をかけてもらったんです。当初はもっと早く出る予定でしたが、まえがきにもあるように、卯月さんの病状が悪化されたり、そのほか紆余曲折ありまして……。
――前作が大きな反響を巻き起こしたことに関しては、卯月さん自身は当時、どう受け止めていたのでしょう?
卯月 いや、びっくりしましたね。もともとが病院で自分の顔を見て、あんまりおもしろいんで友だちに写メをがんがん送りまくって。ロフトプラスワンでスライド流して、キテる漫画家とかAV関係者とか呼んでトークショーやらないかって盛り上がったところから始まったマンガだったんですよ。だから、すごい不謹慎なマンガで(笑)。当時、ボビーと離れて暮らしていたので欲求不満もあって、ノロケをつらつらと描いた感じもあり……。
──じゃあ、溜まっていたものを吐き出したような?
卯月 まさに、完全にオナニーマンガです!
──いやいや。じゃあ、世の中にどう受け止められるかは特に考えず?
卯月 まったく考えてませんでしたね。5000部いってくれたら、出版社に怒られずにすむだろうなーぐらいで。読者からは「うわ、こいつキテる、ガチでメンヘラ!」ぐらいの反応で終わったらいいなと思ってたんですけど。
担当 前作は初版が5000部だったんですよね。そこからどんどん増版されて……。ただ、単行本が出てすぐの頃は、卯月さんも症状が重くなってたいへんだったんですよね。
卯月 たいへんでしたね。入稿前の仕上げぐらいから陰性症状が始まっちゃって、出た時にはもう寝たきりになってたので。
──そういう渦中でもネームというか、日々の記録のようなものはずっと描かれてたんですか?
卯月 描いてました。やってないとダメな性分で、保育園の頃からずっと描くことを続けてきて、描けない時は舞台でパフォーマンスをやってたので、表現してなかった時期が一度もないんですよ。保育園の頃は画家を目指して絵を描いてたんですけど、中学ぐらいから物語とか文章とか書くようになって、高校2年生ぐらいから真剣にマンガを描き始めたので……。
──まさに「生きる=描く」みたいな切り離せないものだったと。今回の『人間仮免中つづき』も、まず、膨大なネームを絞るところから始まったと伺いましたが。
卯月 ネームは80ページぐらいのファイル8冊ぶんぐらいあったんですよ。そこから担当さんと相談しながら絞りに絞って。実際に原稿を描いたのは半年かな、イッキに描き上げましたね。
担当 当初は卯月さんがひとりで北海道で生活している時期から描こうと話してたんですが、最終的にはボビーさんが来てからの話に絞りました。読者の方もそこが一番読みたいんじゃないかと……。
──いや、そうですよ。失礼ながら読者としては、「ボビーさんとダメになってたらどうしよう……」という心配もしながら本を手にしたので。もう冒頭の2人のシーンから、「やられた!」、と。ただ、現実の時間としては、2人が再びいっしょに暮らせるまで、どれくらいの時間が経過していたんでしょうか。
卯月 そうですね、ボビーが北海道に来て、いっしょに暮らし始めてから今で2年半になるんですが、それまでの、施設やひとりで暮らしていたのが5年間になります。この間に、前作が発売されているんです。
──まさに長い時間に育まれた、壮大な愛の物語なわけですね。東京から北海道へ、前作から環境が大きく変わったことで、治療そして創作に関して、やはり影響はありましたか?
卯月 やっぱり東京に比べてのんびりしてるというか、時間がゆっくり流れているので、大きな違いはありましたよね。作中でも描いてますが、北海道の中でもTSUTAYAも宅配ピザもないような環境なので。
──静かな環境でボビーさんとの安定した生活を手に入れた卯月さんが、それでもマンガに向かう理由とは何なのでしょう? 前作に関しては「オナニー」と称されましたが、今回はちょっと動機が違うようにも思うのですが……。
卯月 やっぱり、ボビーといられる時間がもうかぎられているので、少しでも残しておきたいという気持ちが強いですね。職業柄か、記憶力がすごくよくて、歩道橋から飛び降りて、地面にぶつかる瞬間まで覚えてるぐらいなんですけど。やっぱり、ボビーとの生活をマンガというかたちで記録しておきたくて。
──卯月さんの場合は、そういう生死の際や病気で自身が錯乱している状態すら冷静にご自分を観察されているというか、マンガとして描かれたものにすさまじい客観性がある。この俯瞰した視点は、記憶力が度を超えた「作家の業」という気もします。
卯月 それも職業病ですね。なんでも「ネタになるか」ということしか考えてないんですよ。生きることがネタだと思ってるので、ぎりぎりの状態でも、とにかく記憶だけはしておこうと。
──生きることがネタ……(絶句)。