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『けものフレンズ』ブームで動物園にアニオタが殺到!?【B級ニュース】

2017/02/21


複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。

今回は、「アニメ『けものフレンズ』が社会現象に?」について。


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『けものフレンズ -ようこそジャパリパークへ!-』 第1巻
フライ(画) けものフレンズプロジェクト(企画・原案) KADOKAWA ¥580+税
(2016年12月26日発売)


『けものフレンズ』が流行っている。

『けものフレンズ』とは、現在テレビ東京系列で絶賛放映中のテレビアニメだ。
物語の舞台となるのは超巨大総合動物園・ジャパリパーク。このパークにいる動物たちは、神秘の物質サンドスターの力でヒトの姿をした“アニマルガール”に変身している。
記憶喪失のままこのパークに迷いこんだ主人公・かばんは、サーバルちゃん(サーバルキャットを擬人化した美少女) とともにパーク内を大冒険するのであった。

……という説明から「なんだ、動物を擬人化しただけの美少女萌えアニメか」と思ったそこのフレンズ!
気持ちはわかる!
その独特なゆるふわな雰囲気から、放映開始当初はそのように思った視聴者も多かったようだ。
しかし、物語が進むにつれて断片的に明らかになってくるジャパリパークのディテールから、なにやらハードSFじみた世界観が想像でき、歴戦のアニメファンたちのセンス・オブ・ワンダーをおおいに刺激したのである。

ちょうど『魔法少女まどか☆マギカ』『がっこうぐらし!』のように尻上がりにファンを増やし続け、2月に入るとついにGoogleトレンドでも上位にランクイン。
すでに「今期ナンバーワン作品」との呼び声も高く、「けもフレ」中毒者たちが登場キャラの“元ネタ”動物を観覧するために全国の動物園に殺到しているという。

もはや「社会現象待ったナシ」状態だ。

なかでもサーバルちゃんが「すごーい!」、「たのしー!」、「おっもしろーい!」と脳天気に連呼するしゃべり方は、一部のファンのあいだでは「知能が溶ける」と大好評。突き抜けた朗らかさはマッドネスに通じる。
また、サーバルちゃんがほかのアニマルガールを評するときにつかう「あなたは○○が得意なフレンズなんだね!」のフレーズが大ブレイク中。
ほかの動物との能力的な差異を「優劣」ではなく「個性」ととらえる、すばらしき「現状肯定力」であるッ!

「フレンズ」という言い換えによってあらゆる事象を肯定的に受容する、これジャングルの常識。

われわれの住む「ジャパンパーク」では、食堂のすみっこでひとりでモソモソと飯を食べる人間を“ぼっちめし”とか“おひとりさま”なんて揶揄するけれど、そんなネガティブワードは使わずに、これからは「ひとりでごはんを食べるのが得意なフレンズ」と胸を張ろう!
もう「社会的には“のけものフレンズ”だ」なんていわせないッ!
世間の目なんか気にするなッ!!

といったわけで今回は、「ひとりでごはんを食べるのが得意なフレンズ」特集である。 ウラウラベッカンコーッ!


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『忘却のサチコ』 第1巻
安部潤 小学館 ¥552+税
(2014年12月26日発売)

まず最初に紹介するフレンズは『忘却のサチコ』(安部潤)だ。

主人公の佐々木幸子は29歳の文芸誌編集者。仕事をバリバリこなす敏腕編集者で、結婚も決まって人生は順風満帆……と思いきや、なんと披露宴で新郎の俊吾に逃げられてしまう。
俊吾を思い出しては苦悩する日々であったが、しかしサチコはおいしいものを食べたときに「忘却の瞬間」が訪れるのを発見。「忘却の瞬間」を求めて、ありとあらゆる美食を追い求めるのであった。

主人公のサチコをひと言でいい表すなら「クソまじめ×仕事好き=病的(イル)」の公式がピッタリと当てはまるようなタイプ。
度を超して極端にしっかり者であるがゆえに、突拍子もない奇抜な行動を取る抱腹絶倒のコメディだ。

そして、そんなサチコの性格だからこそ、食に対する姿勢もイル。出張先の長崎でトルコライスを最大限に味わうために、まず中学生の部活に混じってオランダ坂をダッシュするのだから、完全にどうかしてる(褒め言葉)。


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『孤食ロボット』 第1巻
岩岡ヒサエ 集英社 ¥600+税
(2014年6月10日発売)

次なるフレンズは『孤食ロボット』(岩岡ヒサエ)。

○×カンパニーのチェーン店で食事をして3000ポイントをためると、小さなヒトガタアンドロイドがプレゼントされる。
このアンドロイドは単身者にのみ贈られるもので、単身者の食事と健康をサポート(しつつチェーン店や配送業での売り上げノルマを達成)してくれる。料理が苦手なOLや、単身赴任のお父さんのもとにやってきた“ちいさな頑張り屋さん”は、体が小さいので自分は料理はできないが、つくり方を教えてくれたり、食材を(勝手に)注文してくれるのだ。

基本的には1話完結型のストーリーで、単身者とアンドロイドの食を通じた生活が描かれていく。つまり本作には「ひとりでごはんを食べるのが得意なフレンズ」しか出てこないのだ。すごーい!

本作のアンドロイドは「単身者に贈られる」のがポイント。
つまり単身者でなくなれば、必然的にアンドロイドとの“別れ”が待っているわけである。
食をテーマにして、グルメマンガのようにレシピ(つくり方)紹介のシークエンスもあるのだが、本作の主眼はあくまでヒューマンドラマにあるところがポイントだ。


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『孤独のグルメ【新装版 】』
久住昌之(作) 谷口ジロー(画) 扶桑社 ¥1,124+税
(2008年4月22日発売)

そして忘れてはならない金字塔が『孤独のグルメ』(原作:久住昌之、作画:谷口ジロー)である。

2012年にはテレビ東京系列で、松重豊主演で実写ドラマ化されると、これが「深夜のメシテロ」と評判を呼び、すでに現在までにシーズン5までドラマシリーズが続いている。
輸入雑貨の貿易商を営む主人公・井之頭五郎は、食に対して独自の信念を持つ。五郎さんが各地の食堂や居酒屋を訪れて食事を楽しむだけのマンガ……ではあるが、「腹もペコちゃんだし」とか「うおォン、俺はまるで人間火力発電所だ」、「ソースの味って男のコだよな」など数多くの名言が作品を彩っている。

作中で五郎さんが
「モノを食べるときはね、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ」
と自分の美学を明かすシーンがある。
谷口ジローは本作以外にも原作つきの作品を数多く手がけてきたが、その多くのは現代人の孤独を描写してきた。谷口作品の主人公たちが刹那に見せる寂寥感は、ものすごく印象的だ。
しかし谷口ジローの描く主人公たちは、孤独から来る寂しさを、わかりやすい手段でまぎらわせようとしない。他人の愛情に頼ったりはしない。強がりややせ我慢ではなく、寂しさに寄り添うような主人公のたたずまいに、われわれ現代人ははてしないシンパシーを抱くのだ。
だからこそ読者は、五郎さんのようにひとりで食事を楽しみたいと感じるのだろう。


本来「孤独」とは「ひとりでいる」状態を表す言葉にすぎない。そこによし悪しはないのだが、過剰に「つながり」を求める現代社会では、あたかも孤独は悪いことであるかのように信じられている。
食事も、マンガも、アニメも、まずは「誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われて」いる状態で楽しむことが大事なのだ。

なにかを楽しむという行為は、孤独な作業にすぎない。
この世界にたったひとり取り残されたような気持ちで対象に向きあい、そのあとで各自が個人的な体験を持ち寄ることで、その知見は多層的になり、やがて文化となる。

今月11日、谷口ジローの訃報が伝えられた。
「ひとりでマンガを読むのが得意なフレンズ」たちは、いまこそ谷口ジローの思い出を語りあってほしい。そしてわれわれは、これからも谷口作品を楽しんでいくのだ。

<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

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