「あの話題になっているアニメの原作を僕達はじつは知らない。」略して「あのアニ」。
アニメ、映画、ときには舞台、ミュージカル、展覧会……などなど、マンガだけでなく、様々なエンタメ作品を取り上げていく「このマンガがすごい!WEB」の人気企画!
そう、これは「アニメを見ていると原作のマンガも読みたいような気もしてくるけれど、実際は手に取っていないアナタ」に贈る優しめのマンガガイドです。「このマンガがすごい!」ならではの視点で作品をレビュー! そしてもちろん、原作マンガやあわせて読みたいおすすめマンガ作品を紹介します!
今回紹介するのは、TVアニメ『龍の歯医者』
ほかの志願者たちに混じって「龍の歯医者」になるためにやってきた少女。
案内役の先輩からなんの説明もないままに、天高くそびえる山のような道を登っていく。
運悪く足を滑らせて落下した少女は、尻尾というには大きすぎる何かに捕まり、一命を取り留める。山に見えたものは、巨大な龍の体だった……。
まるで全貌の知れない物語の一部を切り取ったようなショートアニメは、2014年11月にスタートした短編アニメーション企画「日本アニメ(ーター)見本市」にて公開された『龍の歯医者』だ。
濃密な7分弱の体験は完結した物語でもあり、壮大な序章でもあった(ちなみにこの短編は、公式サイトで3/31まで限定公開されている!)。
イベントでも注目を集めた本作が、ついに2017年2月、ストーリーや設定など大幅に加筆され、新しく制作された長編のテレビアニメーションとして放送されるのだ。
放送を前に、徐々にその全容が明らかになってきたが、実際に放送される前ほど、余白に想像力がかき立てられる。アニメを初めとしたモノづくり、ゼロからの創造には「人」ありき。特にひとりではつくれない、多くのスタッフたちが力をあわせるアニメーションは才能の「足し算」を超えた「掛け算」となり、無限の可能性を秘めているのだ。
原作・脚本は舞城王太郎、三島由紀夫賞受賞作家にして『好き好き大好き超愛してる』などで知られた覆面作家だ。その特異な文体と物語は、マンガ『バイオーグ・トリニティ』でも発揮された一方で、『ジョジョの奇妙な冒険』のノベライズ……というにはあまりに奇妙な『JORGE JOESTAR』でファンを驚かせた(筆者は大好きだ)。
監督の鶴巻和哉は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズで知られるが、変だけどスタイリッシュ、やがてせつない『フリクリ』に心捕まれたままのファンも少なからず。そこでコンビを組んでいた脚本家の榎戸洋司が今回も参加し、「心に刺さるドラマ」再びの予感だ。
そして制作統括・音響監督は“アニメ&特撮界のシン・ゴジラ”こと庵野秀明。
戦時下にある世界、戦局を左右する巨大な力(龍やロケット)に関わる技術者たち――という構図は、若き日の庵野が参加した『王立宇宙軍 オネアミスの翼』とほぼ同じ。技術に命捧げた技術者のドラマという意味では、庵野が声の主演をした『風立ちぬ』にも通じるかもしれない。
もちろん、本作を彩るキャスト陣にも注目したい。
『仮面ライダーフォーゼ』などの清水富美加がアニメ声優初挑戦、脇を固める山寺宏一や林原めぐみ、松尾スズキらの豪華すぎるキャストも「才能の掛け算」に加わって、期待は膨れ上がるばかりだ。見渡すかぎり「龍の歯の上」というとてつもないビジュアル、波を蹴立てる戦艦とボーイミーツガール……公開された映像の断片だけで、ワクワクが止まらない!
TVアニメ『龍の歯医者』を観る前or観たあとに……
今回、TVアニメ『龍の歯医者』をさらに楽しみたいアナタに、読んでほしいマンガを紹介しちゃいますよっ。
『バイオーグ・トリニティ』舞城王太郎(作)大暮維人(画)
『バイオーグ・トリニティ』 第1巻
舞城王太郎(作)大暮維人(画) 集英社 ¥600+税
(2013年4月19日発売)
『龍の歯医者』の原作・脚本を務める舞城王太郎が、原作を手がけたマンガ『バイオーグ・トリニティ』。両方の手のひらに穴が空き、好きなものを吸いこみ融合できる奇病「バイオ・バグ」にかかる世界、主人公・藤井は、同級生の榎本芙三歩(えのもと・ふみほ)に「好きすぎで死ぬ」くらい恋をしている。
そんな藤井が「バイオ・バグ」にかかった人間「穴あき(バグラー)」になってから、「バグラー」と「バグラーを狩る者」の壮絶な戦いに藤井は巻きこまれていく。
独特な世界のなかで少年少女たちが青春を謳歌しながら奇病をめぐるバトルに飲みこまれていく……まさに今回の『龍の歯医者』にも通じるものを感じるではないか! 「現代(ふうの)社会」と「龍の身体」、舞台は違えど、舞城の世界観をより楽しむのに、本作はオススメだ。
『動物のお医者さん』佐々木倫子
『愛蔵版 動物のお医者さん』第1巻
佐々木倫子 集英社 \838+税
(2013年10月4日発売)
“生き物を診る者”つながりで『動物のお医者さん』をご紹介しよう。
札幌市のとある大学で出会った教授に「君は将来、獣医になる」と宣言され、シベリアン・ハスキーの子犬(♀)を託されてしまった主人公・西根公輝(にしね・まさき)。子犬に「チョビ」という名前をつけ、なんの因果か、獣医をめざすことになる。
この主人公・公輝もといハムテルをはじめとした大学のユニークな人物たちの大学生活を描いた本作。ヒトとヒトの交流だけではなく、イヌ、ネコ、ネズミ、トリ……と様々な生き物たちが触れあうことで、なんと世界はおもしろく見えるものか!
作中に出てくるチョビたちの心の声がなんとも愛おしいのだが、ちなみに龍はどんなことを考えているのだろうか。人間たちが虫歯菌と戦っている時、じつは痛みに耐えていたりするのだろうか……そんなふうに想像しながらアニメを見てもより楽しいに違いない。
<アニメ紹介文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)、『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』、『超ファミコン』(ともに太田出版)など。
※マンガ紹介文は編集部による執筆