日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ヤマトタケル』第4巻
『ヤマトタケル』第4巻
安彦良和 KADOKAWA ¥580+税
(2017年2月25日発売)
日本近現代史ものと並び、安彦良和がライフワークとして展開している、日本古代史をテーマとした作品群。その最新作である『ヤマトタケル』の、前巻から約2年ぶりの新巻が刊行された。
舞台は紀元4世紀。各地の小国が争いながら、おぼろげに日本という「国」を形づくろうとしていた時代。争いと謀略の渦巻く世界で「ヤマトタケル」こと小碓皇子の送る数奇な運命を、安彦は史料を参照しつつも、創作者ならではの手つきで想像力の翼を大きく広げ、奔放に描き出している。
この巻から描かれるのは、ヤマトタケルの東夷(とうい)との戦い。
遠征の途上では、前巻で思わせぶりに登場していた弟橘姫(オトタチバナヒメ)が再び姿を現し、本格的にヤマトタケルの人生に関わり始める。彼女の無鉄砲な行動は、いささか固くなりがちな物語に柔らかな印象を与えている。
また、新たなヒロインである宮簀姫(ミヤズヒメ)の存在感も見逃せない。
初登場のコマから、今作で描かれるほかのヒロインたちとは漂う気品が違う。桁違いの美貌であることが、言葉で語らずとも雄弁に伝わってくる。高貴な美女を描き出す筆の冴えは、さすがセイラ・マスの生みの親といったところ。
さらに、物語の序盤においてヤマトタケルの人生の歯車を大きく狂わせ、逆恨みをして去っていった熊襲の娘・鹿文も、戦いの背後で暗躍する。
……そう、1巻を手に取った時からおぼろげに感じていたことだが、この巻ではっきりしたことがある。
この作品の表のテーマは、日本古代史におけるヤマトタケルの行動を、安彦流の解釈で描き出すことなのは間違いない。これまでの単行本に収録されたあとがきや講演録などで、本人がそのように宣言している。
しかし、裏にあるテーマは「女」なのではないだろうか? 国家権力という男性的なものが誕生していく最中で、「女」がどう動き、どう「男」に影響を与えたのか。
ヤマトタケルという、女装することによって男性的な熊襲の王を打ち倒し、名をあげたという象徴的な物語を背負った人物を通じて、そうした男女の業……ヤマトタケルの目線に立てば、一種の「女難」を描き出すこと。安彦はそんな狙いを立てているような気がしてならない。
ただの古代史を題材とした戦記ファンタジーとして楽しんでも、もちろんいい。だが今作には、そのほかの豊かな読解の可能性が広くひらかれているように思うのだ。ぜひ、幅広い層の読者に手にとってみてほしい。
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei