日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『恋は雨上がりのように』
『恋は雨上がりのように』第7巻
眉月じゅん 小学館 ¥552+税
(2017年3月10日発売)
かつて陸上競技で優れた成績を残すも、ケガがもとで部活を離れた女子高生・橘あきら。
ふさぎこむ彼女の気持ちにあたたかい光をともしたのは、雨宿りで入ったファミレスの店長・近藤正巳とのささやかな会話だった。
少女の胸のなかに、雨上がりの青空のようにおとずれた純真な恋心。
あきらは、アルバイトのウェイトレスとして店で働き始め、感情表現は不器用ながらも徐々に近藤との距離を縮めていく。
しかし、ふたまわりも離れた年齢の壁は大きく、あきらと親しくなるほど近藤のほうは戸惑いを増していく……。
クールな黒髪ロング美少女(←重要)女子高生とバツイチ子持ちの冴えない四十路男のロマンスという危うげな題材を、こまやかな描写力で清潔な世界観に仕上げた『恋は雨上がりのように』。
「マンガ大賞2016」や『このマンガがすごい!2016』(オトコ編)で上位入賞、さらに来年1月のアニメ化まで決まって注目度が上がり続ける人気作の最新巻が発売された。
今回は、小説家になる夢への執着を残す近藤の生活や、陸上部時代の用品を捨てる捨てないでギクシャクしてしまったあきらと母親が向かう温泉旅行そのほかを通してそれぞれの背景を掘り下げつつ、近藤の息子の誕生日祝いをともに行う光景から、一足飛びにほとんど夫婦のような構図を紡ぐ2人の姿が描かれる。
さらには、走ることをやめたあきらを心配し続ける幼なじみで陸上部の新キャプテン・喜屋武はるかにふと舞いこむ甘酸っぱいシチュエーションなどのサイドエピソードも挟んで、バランスもテンポもいい内容となっている。
あきら・近藤2人の間に起きるラブストーリーという枠組みを持つ本作ではあるが、青春の曲がり角に立った少女の繊細さと人生の折り返し地点に立った男の屈託を照らしあって生み出す抒情劇は、人が本当にやりたいことや高い理想の前でどうしようもなく立ち尽くしてしまう瞬間を捉えた個人の内面の物語でもある。
あきらにとっての陸上。近藤にとっての文学。
“2人の”だけではなく“1人ひとりの”人間ドラマという角度からも、読んでみてほしい。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7