365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
5月13日はカクテルの日。本日読むべきマンガは……。
『中公文庫コミック版 笑ゥせぇるすまん』 第1巻
藤子不二雄A 中央公論社 ¥648+税
5月13日は「カクテルの日」。
アメリカの週刊新聞「バランス・アンド・コロンビア・リポジトリ」紙上に初めて「カクテルの定義」が掲載されたのが1806年のこの日。2011年に日本のバーテンダー4団体によって定められた。
カクテルとは、ベースとなるお酒にほかのお酒やジュース、薬味などを混ぜ合わせた混成酒。その種類は非常に多く、名前が知られているものだけでも数千種類にもあがるという。
カクテルといえばBARで飲むもの。BARといえば「BAR魔の巣」……そう、『笑ゥせぇるすまん』に登場するあのBARを思い出す人も多いに違いない。
喪黒福造(もぐろ・ふくぞう)の誕生は意外と古く、「黒ィせぇるすまん」のタイトルで「ビッグコミック」1968年11月号に読み切りで描かれたのがデビュー。
それまで児童誌や少年誌を中心に描いてきた藤子不二雄Aの初めての青年誌進出作品ということもあり、藤子史的にも重要な意味を持つ作品だ(読み切り版の「黒ィせぇるすまん」のみ、『藤子不二雄Aブラックユーモア短篇集3』に収録されているのでご注意を)。
1989年にバラエティ番組「ギミア・ぶれいく」の枠内でアニメ「笑ゥせぇるすまん」がスタートし、喪黒は一躍全国区の人気者となる。
アニメ終了後も実写版が放送されたり、キャラクターのインパクトから喪黒福造がCMやキャンペーンキャラクターにたびたび使われたりと、広く受け入れられ続けている。
それどころか現在、新作アニメ「笑ゥせぇるすまんNEW」が絶賛放送中だ。
「ココロのスキマ…お埋めします」と書かれた名刺を渡し、相手の夢や欲望を叶えつつも「ドーン!」と奈落の底に落としこむ喪黒福造。
人間を落としこむメフィストフェレスのような喪黒が、こんなに愛されて続けているとは奇妙なことだ。
特に初期の喪黒は妙に生々しい体の上に南方の仮面のようなあの頭が乗っかっていて、人間じゃないものが人間のフリをしている感がすさまじく高くて怖い。
そう考えると『笑ゥせぇるすまん』というタイトルも、人間の発声をマネたたどたどしさを表現しているんじゃないかと思えて、ほら、怖い。
子どもの頃に読んだ時はひたすら怖い印象だったこの作品、いいトシになった現在読みかえすと、かなり読後感に違いがあることに気づかされる。
あれほど恐ろしかった喪黒の「ドーン!」が、煮えきらない現状にジリジリする焦燥感から解放される福音のようにすら聞こえ、いっそスッキリするような不思議な感覚もあったりするのだ。
うわっ……私のココロのスキマ、広がりすぎ……?
でも、喪黒の「ドーン!」に背中を押され、奈落の底に落ちきったことに奇妙な安堵感を覚えるのも本当なのだ。
ほろ苦さや辛さ、クセのある香りなど、子どもの口には合わないお酒も、いつしかおいしく飲めるようになるもの。「カクテルの日」にふさわしい、ちょっと大人の香りを漂わせているマンガ、それが『笑ゥせぇるすまん』なのだ。
5月13日は『笑ゥせぇるすまん』を片手に、BARに行ってみてはいかが!?
ただし、隣に座っている男が、黒いボストンバッグを持った怪しいセールスマンだったらその時はくれぐれもご用心を。
ホーッホッホッホッ!
<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。