『ウイニング・チケット』第1巻
河村清明(作) 小松大幹(画), 講談社 \533+税
さかのぼること60年前の1954年9月16日、日本中央競馬会(通称JRA)が発足した。 「日本の競馬って、意外と歴史が浅いんだな……」と勘違いされる方もいるかもしれないが、発足以前には国営競馬が開催されていた。現在のJRAは、農林水産省の監督を受ける特殊法人という扱いである。
時は流れてバブル全盛期。天才ジョッキー・武豊の鮮烈なデビューと、笠松から中央に殴りこみをかけた野武士・オグリキャップの登場が重なり、空前の競馬ブームが到来する。
その影響はマンガ界にも大きく、90年代には4大少年マンガ誌すべてに競馬マンガが連載されていた(週刊少年ジャンプ『みどりのマキバオー』、週刊少年マガジン『風のシルフィード』『蒼き神話マルス』、週刊少年サンデー『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』、週刊少年チャンピオン『優駿の門』)。
「競馬アクション」(笠倉出版社)など、競馬マンガの専門誌も刊行されていたほどだ。
だが、21世紀に入って競馬ブームが去ると、競馬マンガもどんどん姿を消していく。そんななか、06年に「ヤングマガジン」でスタートしたのが『ウイニング・チケット』だ。この時点ですでに競馬ブームは遠い昔のできごとであり、馬が売れずに苦労する牧場関係者が多数登場する。
とはいえ単なる馬産地ドキュメンタリーではなく、因縁のライバル対決を主軸に据えて、しっかりとしたエンターテインメントになっている点がポイント。汚い手を使って父を自殺に追い込んだイギリスのウイニング・スタッドに激しい復讐心を燃やす二階堂駿が、オーナーブリーダーとなって大舞台における生産馬同士の対決を繰り広げていく。
サラブレッドの血統ロマン、競走馬と人間の心の交流、経済動物としての残酷な側面、騎手同士の意地の張り合い、地方競馬と中央競馬の格差、外国人馬主の参入問題など、あらゆる競馬の要素が詰めこまれた本格派の競馬マンガが、ヤンキーとエロが大勢を占めるヤンマガで読者から一定の支持を受け、足かけ6年に渡って連載されたのは奇跡的なことである。
今秋(10月5日)にはハープスター、ゴールドシップ、ジャスタウェイという最強布陣が、世界最高峰レース「凱旋門賞」制覇に挑む。
日本競馬の歴史が変わろうとしている今、『ウイニング・チケット』に匹敵する骨太な競馬マンガの登場を待ち望んでやまない。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」