日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ど根性ガエルの娘』
『ど根性ガエルの娘』 第3巻
大月悠祐子 白泉社 ¥600+税
(2017年6月29日発売)
巻を追うごとにタイトルの持つ意味が変化していく衝撃作。
第3巻にはネット上で物議を醸した“あの第15話”が収録されている(あまりの反響に現連載サイト「ヤングアニマルDensi」へのアクセスが困難になった)。
本作は若くして成功したジャンプ作家=吉沢やすみの天国と地獄を、同じく漫画家となった娘が描くという点がキモである。
マンガが描けなくなり、ギャンブルに逃げた吉沢と、彼に振り回される妻と娘と息子。
吉沢は億単位の貯金を湯水のように使いはたし、ついには子どもたちの財布にまで手を出すほどに成り下がっていく。
その凄絶な日々の果てに何が待ち受けるのか、読者はページを繰りつつドキドキしながら話を追っていくのだ。
『田中圭一のペンと箸』や、テレビ番組などでも吉沢の波瀾万丈な人生は取りあげられているが、失踪などの凋落後はソルマックのCMキャラクターやパチンコメーカーとのタイアップで経済的に安定し、今ではギャンブルもほどほどに孫をかわいがる好々爺として心穏やかにすごしている……というハッピーエンドが常であった。
もちろん、それも現実にあったことなのだろう。
第2巻の終盤では孫ができてから吉沢の生活が健康的になり、大月が夢に見た家族団らんも実現している。
だがしかし、そこから先も時は流れている。残酷なまでに――。
問題の第15話からはエピソードが本格的なメタ構造になっていき、第1巻、第2巻で語られた内容は別の表情を帯びてくる。
“家族の再生ストーリー”という感動コンセプトありきで立ちあがった作品なのに、その“ありき”がグニャグニャと歪んでいくのだ。
そして、(時間軸を入れかえながら)立て続けに起こる大きな事件と急展開。
もはや読者も作品世界の立派な住人である。
こうなったら“本当の最終回”までキッチリ併走しようではないか。
<文・奈良崎コロスケ>
吉沢やすみ先生は、2月に急逝した父が経営していた雀荘の常連でした。初めて買ってもらったコミックスは『ど根性ガエル』第8巻です。