日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『君曜日3 ─鉄道少女漫画4─』
『君曜日3 ─鉄道少女漫画4─』
中村明日美子 白泉社 ¥714+税
(2017年7月31日発売)
『鉄道少女漫画』の1篇「木曜日のサバラン」からのスピンアウト作。
やや奥手な中学生の少女・倉木亜子(アコ)はケーキ屋の奥にある、毎週木曜だけ開く「秘密の部屋」に行くのを楽しみにしていた。
アコは、祖父が大切にしていた鉄道模型を敷設したその部屋で出会った、子持ちの会社員男性に淡い思いを抱いていたが、塾でいっしょの空気を読まない男子・小平が、何かとアコに絡んできて……。
まだまだ成長途上の甘酸っぱい中学生の恋が、鮮やかに描かれる。さらに自分の「好きなこと」に相手も興味を持ってくれる喜びも織り交ぜている。
ちなみに『鉄道少女漫画』は小田急線をモチーフにしていたが、こちらはSLが走る路線がフィーチャーされているのもまた、迫力満点で旅情もあふれる。
そのなかでも、あの「トーマス号」でも知られる大井川鐡道へ遠出したアコと小平は、ぐっと距離が縮まり、小平はついに告白! アコの返事は?
電車の旅は、目的地につく達成感だけでなく、車窓の風景や乗りあわせた人たちとの思い出が味わい深い。それは、恋に似ている。
小平の幼なじみで、片思いしている勝気な少女・持田華絵の思いきった行動もカッコいい。恋愛体質のお気楽少女と思いきや、おとなびた感覚を持つ親友の「みさっちん」もアコの背中を押してくれる。よく手入れされた車両のように乗り心地のよいストーリーだ。
原点に立ちかえったある場所にて、「すれ違う」クライマックスも心憎い。
鉄道模型の愛好家たちの、「部屋」の外での普段の姿を見せる短編も収録されている。 みんなひとクセあって愛らしい。だれかを好きになれば何曜日でも待ち遠しい日になるし、夢中になれるものがあれば、人は優しくなれるのだ。
『鉄道少女漫画』第1作掲載からじつに10年、素敵な旅をありがとう!
<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWEB記事などを手がけるライター、たまに編集。とある学生街に在住し、いろいろと画策(だけ)しつつ、男児育てに追われる日々です。