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『このマンガがすごい! comics 日ポン語ラップの美ー子ちゃん』 服部昇大 【日刊マンガガイド】

2017/09/25


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『このマンガがすごい! comics 日ポン語ラップの美ー子ちゃん』



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『このマンガがすごい! comics 日ポン語ラップの美ー子ちゃん』
服部昇大 宝島社 ¥740+税
(2017年9月25日発売)


日本語ラップをこよなく愛する漫画家の服部昇大がTwitter上で発表し、のちに同人誌としても発売され、音楽&サブカルチャーシーンで大きな反響を巻き起こした『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』が、ついに単行本になった。

ネットを徘徊していて、黒髪ストレートの美ー子ちゃんの顔と『日ポン語ラップの美ー子ちゃん』という手描きタイトル、その下に9コママンガが入ったヴィジュアルを偶然発見。強烈なデジャブに襲われた――という人は少なくないだろう。
昭和世代にはおなじみの『日ペンの美子ちゃん』(主に70~80年代に少女マンガ誌や中高生向け学年誌の裏表紙などに掲載されていた、日本ペン習字研究会が運営するボールペン習字通信講座の広告マンガ)のパロディ形式で、日本語ラップ大好き少女の「美ー子ちゃん」が毎回、様々なかたちで日本語ラップの魅力を紹介してゆく「日本語ラップ解説マンガ」なのだが、よくあるパロディと侮るなかれ。

ラッパーになる決意をしたタケシを心配する母に、ラップ好きの美ー子ちゃんが「今なぜラップがキテるのか? そもそも、ラップとはなんぞや?」といったイロハを強引に説く導入部から、グイグイ引きこまれる!
第1章「誤解されてる日本語ラップ」、第2章「バトルブームから聴き始める日本語ラップ」、第3章「あなたの知らない最新 日本語ラップ」、第4章「OLでも聴ける!日本語ラップ」、第5章「こんな世界も!? おもしろ日本語ラップ」からなるメイン章では、RHYMESTERやいとうせいこうといった先駆者から、Creepy Nuts(R-指定&DJ松永)やBAD HOPなど、近年の日本語ラップブームの火付け役となったTVのMCバトル番組(「フリースタイルダンジョン」)を軸とするシーン、KOHHやSIMI LABといったカリスマから水曜日のカンパネラ、DJみそしるとMCごはんなどのポップ勢まで、多彩なアーティストをフィーチャー。

「しょせん黒人のモノマネ」といった日本語ラップに対する誤解や偏見をブッタ斬りながら、その音楽的にも文化的にもユニーク極まりない進化と成熟の歴史をひも解き、に百花繚乱の最盛を迎えた日本語ラップの世界へと読者を誘ってゆく、ツボを押えたスムースな流れは、名DJのごとし。
そんじょそこらの音楽ガイド本も顔負け!

著者の日本語ラップ愛あふれる熱い語り口には、音楽にさほど興味がない人間もワクワクドキドキ。本を片手に今すぐグーグル検索&音源を聴きたい衝動に駆られる。
「文化が豊かであるために「おもしろ作品」は重要よ 今のHIPHOPシーンに足りないのは「おもしろ作品」をとりあげる場よ!」
なんて、グッとくる名言も満載。

これまた日ペンの広告を見事に完パロした「美ー子ちゃんで私は変わった!!」という体験者の声コーナーでは、コトヤマや高野雀など、著者の友人漫画家や編集者が登場。それぞれの日本語ラップ体験を披露しているのも楽しく、うまいな~!と心憎いかぎり。

また、現実上では本作をネットで偶然発見した日本ペン習字研究会が服部氏に6代目『日ペンの美子ちゃん』の作画を依頼。パロディと「御本家」の奇跡のコラボが実現したという逸話も、「じつにヒップホップ的!」と唸らされずにいられない。

日本語ラップの入門書としてはもちろん、マンガ表現としてのポテンシャルの高さも素晴らしい、音楽好きならずとも必読の1冊だ。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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