日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『マーベル ツムツム:テイクオーバー!』
『マーベル ツムツム:テイクオーバー!』
ジェイコブ・シャボット(作) デイビッド・バルデオン(画) 光岡三ツ子(訳)
小学館集英社プロダクション ¥1,800+税
(2017年9月20日発売)
スマートフォンの人気アプリ「ディズニー ツムツム」から派生する形で誕生した、マーベル・コミックスのヒーローたちをツムツム化したスマートフォンアプリ「マーベル ツムツム」。ゲームで活躍するカワイイ姿にデザインされたヒーローたちを、今度は本家のマーベル・コミックスが新たな設定を追加して、コミックスへ登場させたのが本作『マーベル ツムツム:テイクオーバー!』だ。
物語は、宇宙からやってきた変身能力を持つ宇宙生物“ツムツム”を、アメリカのブルックリンに住む、ヒーローに憧れるホーリー、バート、ダンクの3人組が拾ったことから始まる。
彼らとともに、目の前でヴィランたちと戦うアベンジャーズの活躍を観たツムツムたちは、その能力を発動。ヒーローの能力をコピーして変身して騒動を巻き起こす。
ツムツムの持つヒーロー的な能力を知った3人組は、ツムツムとともに憧れのヒーローのように街を守るべく行動を開始する。
しかし、そのかたわら彼らの住む集合住宅に潜んでいた小悪党的なヴィラン、ルーターがツムツムの姿を目撃。そのうちの1体を誘拐すると、そのツムツムはアベンジャーズの宿敵でもあるウルトロンをはじめ、さらにはほかのヴィランの力をコピーさせ、ルーターはその力を使って悪事を働き始めるのだった……。
本作の最大の特徴は、ツムツムを主人公とした別のユニバースを構築し物語を展開するのではなく、現在進行系でヒーローたちが活躍するマーベル・コミックスのメインユニバースへツムツムを登場させたことだろう。
ヒーローに憧れる子どもたちとツムツムが協力して戦うという展開は、その内容から年齢層の低い子どもたちに向けていることがわかる。この設定をあえてメインユニバースと連動させることによって、子どもたちがこれからマーベル・コミックスの世界を楽しむためのきっかけとなるようにしようとしているのだ。
大きく広がり、常に変化し続けているマーベル・ユニバースにおいて、メインで展開している物語は、キャラクター配置や設定が複雑化しており、いきなり足を踏み入れるにはちょっとハードルが高くなっているのは事実だ。
そこで、本作『マーベル ツムツム:テイクオーバー!』は、マーベル・ユニバースの入門書としてクッションにもなるような役割を果たし、映画やゲーム、キャラクターグッズなどの別コンテンツからマーベル作品に興味を持ち、コミックスを読んでみたいと思っているユーザーの足を向けやすくしているのである。
そうした意図が反映された物語は、初めてでも読みやすく、作品世界に入りこみやすくなっていながらも、物語の後半ではマーベル・コミックスの魅力であるややハードな世界で戦うヒーローたちの雰囲気も文字どおり垣間見ることができる。
その一方で、これまでマーベル・コミックスを読んできたファンならば、マーベル・ユニバースへ投入された新たな要素である“ツムツム”の描かれ方に込められたキャラクターの描かれ方や散りばめられたマニアックな要素、そして現状のタイムラインとの連動感を読み取ることで、ややディープな楽しみ方もできる。
“ツムツム”というキャラクターのおかげで、一見するとライトな1冊とみなされてしまいがちなタイトルだが、じつは浅いところから深いところまで、幅広いファンが納得できる1冊となっているのだ。
<文・石井誠>
1971年生まれ。アニメ誌、ホビー誌、アメコミ関連本で活動するフリーライター。アメコミファン歴20年。
洋泉社『アメコミ映画完全ガイド』シリーズ、ユリイカ「マーベル特集」などで執筆。2013年から翻訳アメコミを出版するヴィレッジブックスのアメリカンコミックス情報サイトにて、翻訳アメコミやアメコミ映画のレビューコラムを担当している。