『卓球社長』
島本和彦 小学館 ¥524+税
1971年の4月7日、愛知県名古屋市で開かれた世界卓球選手権大会に、中国チームが6年ぶりに出場したことは歴史上大きな意味を持つ。これをきっかけとして後日、中国はアメリカをはじめ欧米の卓球選手を中国に招致することに。
この、いわゆる「ピンポン外交」が功を奏し、長らく冷戦状態にあった米中間の関係が氷解し、ひいては日中の国交正常化にもつながったのだから。
『卓球社長』は、とある会社の社長が主人公。恰幅のよいオッサン体型の温厚そうな人物だが……そこは島本作品の主人公、うちにはメラメラ燃える闘志を秘めているのだ!!
彼の卓球の腕はかなりのもの。なんと、“温泉卓球”を通じて人の道を説き、会社を立て直したり、危機にひんした友人を救ったりしたことも。
自分からは決して攻めこまないものの、どんな強打もおっとりはね返す“人格卓球”を得意とするが、相手をねじふせる必要とあらば遠慮なく痛打を繰り出してみせる。
卓球で商談成立、卓球で迷える若者を導く……打ちあうことでコミュニケーションをはかるさまは、まさにピンポン外交の領域!?
今年『アオイホノオ』で小学館漫画賞・文化庁メディア芸術祭部門優秀賞を受賞した島本和彦の隠れた名作。
情と熱さとバカバカしさが一丸となった、島本節全開の作品だ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
「ド少女文庫」