『束縛愛 ~彼氏を引きこもらせる100の方法~』第1巻
小路啓之 秋田書店 \562+税
(2015年5月22日発売)
くくるには、他人の頭の上に色とりどりの数字が見えるという不思議な能力がある。
その数字は、増えることはあっても減ることはない。やがて、それは「その人が大事にしているモノの数なんだ」と気づく、くくる。
ちなみに、家庭の事情から人というものを大切に思えないくくるのカウントは、0のまま。
そしてもうひとつ0のままなのが、クラスメイトのミオリ。自分の存在を消すかのように、地味に目立たず生きている少女だ。
そんな彼女に興味を持ち、尾行したことで、くくるはミオリの秘密を知っていくことになる。彼女は、密かに空き家である生き物を飼っていたのだ。
その生き物というのは、「生後192カ月の男の子」であるユウゴ。ある事情から家族と離れ、ひとりで生きていくすべもない彼を、ミオリは飼育。
しかし、住居、金銭、性欲と、様々な問題が生じることになる。それに対してミオリは、法を犯した様々な危険な行動に出るが……。
絵柄もセリフまわしもポップでセンスに富みながら、ある見方をすれば、かなりエグいお話ということにもなるだろう。
それでもグイグイ引きこまれていってしまうのが、この著者の魅力。これまでも歪んだ愛の形を描いてきた小路だが、歪んでいようと、清くなかろうと、愛は愛なのだ。むしろ、こうとしか生きられない、そうとしか振るまえない人々の姿にせつなさを覚えるほどだ。
ひと癖ある怪しい登場人物が増えていくなかで、ユウゴとミオリ、またミオリとくくるの物語が、どこへどう行き着くのか、ワクワクもヒリヒリもさせられる。
気になるのが、冒頭のフリとなっている、くくるに見えている数字。
気鋭・佐藤佐吉監督の映画『半分処女とゼロ男』でも他人の頭(こちらは額)に数字が見える主人公が描かれていたが、同作ではそれはその人が性交渉を持った人間の数と思わせておいて、じつは……というオチがついている。
本作が怪作で名作であることは、この時点で間違いない。
少年少女の紙一重の危うさと純粋さを描き出す作品として、要注目だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。