『逆境ナイン』第4巻
島本和彦 小学館 ¥533+税
1920年の8月16日、アメリカの野球チームであるクリーブランド・インディアンスの遊撃手レイ・チャップマンが、ニューヨーク・ヤンキースのカール・メイズ投手の投球をこめかみにまともに食らい、その影響で翌17日早朝に亡くなった。
このアクシデントは、長い歴史を持つMLB史上でも非常に悲惨な事故として知られており、以降安全対策が進み、打撃用ヘルメットが開発されることとなった。
その後、バッターはヘルメットを装着するのが常となり、デッドボールの危険性は減少するのだが、デッドボールの危険があるのはバッターだけではない。
バッターが打ち返した打球がピッチャーに襲いかかる、「ピッチャー返し」が事故につながることもあるのだ。現・広島東洋カープの黒田博樹投手もMLB時代に頭部にピッチャー返しを受け、病院へ緊急搬送されたことがある。幸いなことに大事には至らなかった。(2009年8月15日ドジャースVSダイヤモンドバックス戦)
今回は、そんなピッチャー返しの恐ろしさが描かれている『逆境ナイン』第4巻を紹介する。
事故が起きたのは、前半のクライマックスである地区予選決勝だ。
主人公・不屈闘志の所属する全力学園高校の前に立ちふさがる、宿命のライバル校である日の出商業高校。
ピッチャー不屈の前に立つ日の出商業の1番バッターは、低い弾道の打球をピッチャーの顔面に直撃させて倒すという、ピッチャー返しの名手・星野。
彼は再起不能にしてきたピッチャーの数を星マークでバットに記録しており、その数から彼の恐ろしさがうかがえる。
そして、不屈はみごとに打球を顔面に受けて気絶してしまうのだが、その後意識が戻ったときには試合はすでに9回の表。
しかも、全力学園高校は日の出商業に100点以上の差をつけられてしまっていた!
ここからマンガ史に残る逆転劇が繰り広げられるのだが、ピッチャー返しとはまことに恐ろしいものである(狙う方が悪いんだけど)。
実写映画版にも、日の出商の「スナイパー」がピッチャー返しをしまくるシーンがちゃんと収録されているので、こちらもお見逃しなく。
<文・山田幸彦>
91年生、富野由悠季と映画と暴力的な洋ゲーをこよなく愛するライター。怪獣からガンダムまで、節操なく書かせていただいております。
Twitter:@gakuton