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『ジゼル・アラン』第5巻 笠井スイ 【日刊マンガガイド】

2015/08/14


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『ジゼル・アラン』第5巻
笠井スイ KADOKAWA ¥620+税
(2015年7月15日発売)


20世紀初頭のヨーロッパが舞台。ヒロインは、アパートの大家兼管理人をする資産家出身の娘さん、ジゼル。
好奇心あふれる彼女。家に引きこもって大家なんて、やっていられるわけもなし。なんでも屋として仕事を引き受け、裾をひるがえし走りだす。
おともにつくのは、家賃を払えぬ店子で作家志望の青年・エリック。
おてんばお嬢様とさえない青年。でこぼこコンビは仕事をこなすべく、えいやと街を駆けまわる。

……というのが、本作のあらすじのはずだった。
しかし第3巻で、エリックが本腰を入れて作家を目指すべくアパートを出ていってから、このマンガの雰囲気が少し変わる。
それまでのジゼルは、敬語もろく使えない世間知らずのお嬢様だったのだが、ひとりで仕事をこなしていくなかで、ぐんぐん成長をとげていく。

いっぽうのエリックは行きづまっていた。自分の小説が認められず、有名作家のゴーストライターをやっていた。
5巻では、そんなエリックのもとへジゼルが乗りこむ。
まっすぐに生きてきたエリック。とてもじゃないが、本心を打ち上げながらともに過ごしてきたジゼルに、今の状況を言えるはずがない、と隠れてしまう。

ジゼルはエリックを見つけ出し、彼の小説を読み感動する。雇い主の作家に対し、エリックに自分の言葉を書かせず、「嘘」の仕事をさせていることに憤慨する。
だけど、彼女がどうこう言って解決できるたぐいの問題ではない。
たとえばジゼルが作家をぶん殴ってエリックを連れ帰れば、そりゃめでたしめでたしかもしれない。それでは何も成長できたとは言えない。

このマンガは、なんでも屋が「解決」するのが目的なのではなく「もっともうまくいくようにがんばる」ことを描こうとしている作品だ。
だから、ジゼルは失敗して涙を流す。エリックは苦しみながらジゼルから距離を置こうとする。

7歳差の2人。どちらも愚直で不器用だ。だから惹かれ合うし、いっしょにやってこれた。
今は、離れてもそれぞれが成長をするべき時期。
2人の淡い恋も含めて。

ジゼルは5巻で14歳になった。
涙をぐっとこらえながら、着実に成長していくジゼルの視野は広がっていく。
年齢の分、行きづまる壁が高く、世間の厳しさを知り絶望するエリック。
ただ、ジゼルは彼に言う。
「お前には私がついてるんだからな。忘れるなよ」
まるでプロポーズ。あるいは姫とナイトの誓い。

なんでも屋のお嬢様・ジゼルはセミロングの黒髪をなびかせて、今日も元気に、笑顔で街を駆け回る。
鞄に、エリックへの手紙を入れて。



<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」

単行本情報

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