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『べしゃり暮らし』第19巻 森田まさのり 【日刊マンガガイド】

2015/08/26


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『べしゃり暮らし』第19巻
森田まさのり 集英社 ¥562+税
(2015年7月17日発売)


今話題のお笑い芸人、ピース・又吉直樹の芥川賞受賞作『火花』は、まさにお笑い芸人の先輩・後輩によって紡がれる人生の物語だ。
また、数年前に放送作家・鈴木おさむが書いた『芸人交換日記〜イエローハーツの物語〜』も“売れない芸人たちのリアル青春物語”として話題になった。

しかし2005年、だれにもさきがけて現在のお笑い業界を描いた作品を世に送り出していたのは、天才・森田まさのりであった!

笑いをとるために命もかける主人公・吾妻圭右(あがつま・けいすけ)は、高校時代に出会った辻本潤(つじもと・じゅん)とお笑いコンビ「きそばAT(オートマティック)」を結成。芸人になることに反対する父と和解の末、芸人養成所に入学。一度は新メンバー・子安を迎えお笑いトリオ「べしゃり暮らし」として活動するが、ほどなく子安は脱退。それ乗り越え、再び「きそばAT」としてNMC(ニッポン漫才クラシック)にエントリーする。
これは、全国から「我こそ天才」と集う夢追い人たちとしのぎを削りながら、自分たちの道を上り出す熱き人間ドラマである。

この濃密なドラマを支えるのは、何よりも著者自身が吉本興業の芸人養成所・NSCに入学してまで行った緻密な取材だ。
夢を叶えることの厳しさのみならず、芸人の卵の視点から見る先駆者たちの悲喜こもごも、お笑いを支える人々の苦楽までリアルに描き出された本作が、読者の心を引きつけないはずがない。

そんな10年にわたって読者を魅了してきた連載も、いよいよ終幕だ。
17巻で記憶喪失となった圭右は依然変わらず、しかし彼の周囲、とりわけ相方・辻本には大きな変化が起きていた。
行方知れずだった芸人くずれの父親が現れ、母親と再会。ずっと憎んでいた父の笑いへの執着を見て、辻本のなかに芸人としての芯が生まれる。

いっぽう、NMC準決勝を目前に控えた圭右からは、天性のアドリブ力が消えてしまっていた。かわりに記憶力をえた圭右のために、辻本はとっておきの新ネタを用意。
だか、ステージ直前、圭右に突如記憶がよみがえる……。

笑いにかける男の美学を追求し、笑いを、男を、人間を、磨き合って、今迎える芸人たちの飛翔の瞬間!
「お笑いとは何か」。「相方とは何か」。
かけがえのない相方とはこういうものだと言う辻本のモノローグを読む時、自分にとっての相方という存在をつい探してしまうほど、その言葉はきっと心に響くはず。

おしも今年はM-1グランプリが5年ぶりに復活。
きっと圭右たち芸人は今この瞬間にも、第11代王者の座を目指し、ネタを作り、ネタ合わせを重ねているに違いない!



<文・藤咲茂(東京03製作)>
美酒佳肴、マンガ、ガンダム、日本国と陸海空自衛隊をこよなく愛し、なんとなくそれらをメシのタネにふらふらと生きる編集ライター。

単行本情報

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